『失われた宇宙の旅2001』

キューブリックが目指したまったく新しい宇宙映画。


映画『2001年宇宙の旅(2001: A Space Odyssey)』。

スタンリー・キューブリック監督によるこの名作は、日本では1968年に公開されました。

私は1967年生まれのため、リアルタイムで劇場公開を観ることは叶いませんでした。

ただ、当時発売されていた「ドラゴンブックス」や「ジャガーバックス」などのSF映画特集本を通じて、この映画の存在は知っていました。

そんな『2001年宇宙の旅』を劇場で観るチャンスが巡ってきたのは、1984年(おそらく)のことでした。

リバイバル公開というやつです。当時は高校2年生。『2001年宇宙の旅』自体の難解さに加え、併映が同じくキューブリック監督の強烈な作品『時計じかけのオレンジ(A Clockwork Orange)』であったこともあり、鑑賞後は何とも形容しがたい気分になりました。

ただ、映像の凄まじさだけは鮮明に記憶に残りました。

それからさらに時が流れ、再びこの作品をスクリーンで観る機会が訪れました。

2026年の「午前十時の映画祭」で上映されることになり、早速観に行ったのです。

最初の日本公開から58年、半世紀以上の月日が経過しています。

この間、SFXからVFXへと映画の映像技術は目まぐるしい進化を遂げました。

しかし、改めて劇場で観た『2001年宇宙の旅』の映像や登場するメカの造形は、全く色あせておらず、ただただ驚かされました。


――――――――――――

書名:『失われた宇宙の旅2001』

著者:アーサー C.クラーク(著)、伊藤典夫(訳)

出版:早川書房(2000.04)

――――――――――――


著者はイギリス出身で20世紀を代表するSF作家の一人であり、科学解説者。

スタンリー・キューブリックと共同で脚本を執筆した映画『2001年宇宙の旅』の初稿や撮影の裏話を紹介します。


映画『2001年宇宙の旅』の製作にあたろうとするスタンリー・キューブリックの意気込みを紹介します。


<本文引用>------------

スタンリー・キューブリックとの初対面は一九六四年四月二十二日、ところはレストランのトレイダー・ヴィックスだったが、その時期、彼はすでに膨大な量の科学知識とSFを吸収し、空飛ぶ円盤を信じるという危うい方向に傾きかけていた。わたしはこのおぞましい運命から彼を守るため、危機一髪のところで駆けつけたような気がしたものだ。スタンリーははじめから、最終ゴールについてはたいへん明確な考えを持っていて、それに近づく最良の道順をさがしていた。彼が作りたかったのは、この宇宙におけるヒトの位置を描いた映画で――そのたぐいのものは、映画史上かつて存在したことがないどころか、一度も試みられたことはない。もちろん“宇宙”映画はごまんとあるが、クズ同然のものがほとんど。 何作か上手にきちんと作られているものも、内容はどちらかといえば単純、宇宙飛行を子供っぽい冒険ものとして描くのに熱心で、その社会的・哲学的・宗教的な意味まではカバーしきれていない。(本文より)

------------------------


従来の宇宙映画を「クズ同然」とし、それまでに全くなかった作品を作ろうとしているのが伝わってきました。

映画のタイトルは『2001: A Space Odyssey』。


<本文引用>------------

プロジェクトの題名は、スタンリーが記者会見で述べた抱負のなかでは『星のかなたへの旅』Journey Beyond the Stars とされた。わたしはこの題名があまり好きではない。いままでSF的な旅行や航海をさんざん見せられて、そういうものに食傷していたからだ(じっさいインナースペース超大作、ラクエル・ウェルチ主演、ほか脇役の赤血球・白血球無慮数万という『ミクロの決死圏』がほぼ同時期に製作にはいっていた)。 ほかに、思いうかんだものの納得がいかなかった題名には Universe(宇宙)、Tunnel to the Stars(星星へのトンネル)、Planetfall(惑星初認)などがある。スタートからようやく十一カ月後――一九六五年四月——―スタンリーが選んだのが、2001: A Space Odyssey(2001年宇宙のオデッセイ)である。わたしの記憶にあるかぎりでは、これはまるまる彼のアイデイアだ。 (本文より)

------------------------


スタンリーは『2001: A Space Odyssey』と名付けます。



映画『2001年宇宙の旅(2001: A Space Odyssey)』の数あるエピソードのうち、宇宙船の人工知能HALの反乱は有名です。

この「HAL」は企業「IBM」を一文字ずつずらしたものではないか、というお話をよく聞きます。

しかし、著者はしっかり否定します。


<本文引用>------------

また映画では、封切り後まもなく不愉快な根強い神話がひとつ広まったが、よい機会なので、このページを借りてそれを粉砕しておきたい。小説のなかに(16章)はっきり述べられているように、HALは「発見的プログラミングをされたアルゴリズム的コンピューター」 Heuristically programmed ALgorithmic computer の略である(いや、説明はしない。コンピューター・デザインには二つの世界があるが、その最良の部分をかけあわせたというだけにとどめよう)。ところが、週にひとりぐらいずつ、おかしなことを指摘する人間が出てくる。HALがIBMのアルファベットを一字ずつ前にずらした名前であるといいだし、スタンリーとわたしがあの立派な組織にケチをつけていると短絡してしまうのだ。

IBMはいろいろと協力してくれた企業なので、これはたいそう迷惑で、早く気づいていれば、避けて通りたかった偶然である。いや、じっさい偶然なのだ――確率が二十六の三乗、というか一七五七六分の一であるにしても・・・・・・。(いまHALジュニアを使って計算した。ヒューレット・パッカード社の友人たちが、一九六九年のクリスマスにプレゼントしてくれた麗しの9100A計算機である)(本文より)

------------------------


映画『2001年宇宙の旅(2001: A Space Odyssey)』は1968年にアメリカで公開されました。

一方、本作の原書は1972年に発表されたようです。

で、日本では2000年に出版されています。


<本文引用>------------

それにしても、なぜ一九七二年刊の本がいまごろ出版されるのか? その理由は大きくいって二つある。そのうちのひとつは、いまも変わらぬ題材そのものの魅力だ。映画『2001年』がいかに大きな社会的インパクトを与えたか、それは二○○一年がまぢかにせまったいまでも、D・G・ストーク編『HAL伝説――2001年コンピュータの夢と現実』(早川書房、一九九七)といった本が話題を集めていることからもうかがえるし、日本ではジェローム・アジェル編『メイキング・オブ・2001年宇宙の旅』(ソニー・マガジンズ、一九九八)がようやく出版され、新しい世代にも関心が脈々と受け継がれている。そうした流れのなかで、この本にもあらためて脚光があたってもいいのではないかと考えたのがきっかけである。(本文より)

------------------------


私は半世紀以上を経た作品を劇場で観るという貴重な体験をしました。

ストーリー、メカ、撮影技術、そして難解さ。

どれもまったく色褪せていませんでした。


◆頭の中でシンクロした他の完読作品

『失われた宇宙の旅2001』 


――――――――――――

■読んだきっかけ:「午前十時の映画祭」で観た『2001年宇宙の旅』

■読んで知ったこと:キューブリックが目指したまったく新しい宇宙映画。

■今度読みたくなった作品:『メイキング・オブ・2001年宇宙の旅』ジェローム・アジェル

――――――――――――


1212_失われた宇宙の旅2001.png


失われた宇宙の旅2001 (ハヤカワ文庫 SF ク 1-32) - アーサー C.クラーク, 伊藤 典夫
失われた宇宙の旅2001 (ハヤカワ文庫 SF ク 1-32) - アーサー C.クラーク, 伊藤 典夫






Bookstart2.jpg



『ベネズエラ-溶解する民主主義、破綻する経済』

チャビスタ(チャベス派)政権。


「腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index, CPI)」という指標があります。

トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)が1995年以来毎年公開しているもので、世界各地の公務員と政治家が、どの程度汚職していると認識できるか、その度合いを国際比較し、国家別に順位付けしたものです。

2021年の「腐敗認識指数」トップ(最もクリーンな国)は同順位でフィンランド、ニュージーランド、デンマーク(1位)、最下位は南スーダン(180位)、日本は18位です。順位が上にあるほど、腐敗が少ない国家ということになります。

一方、「脆弱国家ランキング(Fragile States Index; FSI)」という指標もあります。

アメリカのシンクタンクの一つである平和基金会(FFP)が発表しているもので、以前は「失敗国家指標」と呼ばれていました。

2023年のデータによれば、最も脆弱とされた1位はソマリア、逆に最も安定している最下位(179位)はノルウェーで、日本は160位でした。こちらは順位が上にあるほど、国家として脆弱であることを意味します。

「腐敗認識指数」のワースト3は南スーダン(180位)、ソマリア(179位)、シリア(178位)。

「脆弱国家ランキング」のワースト3(1位〜3位)は、ソマリア、スーダン、南スーダン。

こうして見ると、不思議と似た国々が並んでいます。

(※CPI 2021のソマリアは178位ですが、FSIとの対比をスッキリさせるため、ワースト3という括りで整理しています)


――――――――――――

書名:『ベネズエラ-溶解する民主主義、破綻する経済』

著者:坂口安紀(著)

出版:中央公論新社(2021.01)

――――――――――――


著者はアジア経済研究所主任調査研究員。

チャベス、マドゥロ両政権期を通した「チャビスタ(チャベス派)政権」を解説します。


ベネズエラと言えば産油国で有名ですが、今や大変な経済危機に見舞われているようです。


<本文引用>------------

チャベス政権期が石油価格の高止まりとそれがもたらす高成長に恵まれた一方、マドゥロ政権期は経済が加速的に悪化し続け、政権維持がきわめて厳しい局面が続いている。二〇一八年にはインフレ率が一三万%に達するなど、想像を超えるハイパーインフレに突入した。両政権で二回のデノミが行われ、インフレ収束の期待をこめて通貨名は「ボリバル」から「ボリバル・フエルテ」(強いボリバル)へ、そしてさらに「ボリバル・ソベラノ」(国家主権のボリバル)へと変更された。合計でゼロが八つ取り払われたにもかかわらず、ベネズエラの法定通貨は完全に価値を失い、トイレットペーパー一ロールを購入するためにうず高く積まれた紙幣の山や、紙幣を材料にして作成した帽子やかばんを売る人びとなど、驚くような写真が海外メディアで紹介された。

食料など生活必需品の価格は天井知らずとなり、一般市民を窮地に追いつめている。生活を守るために、漁村では魚とトウモロコシ粉などの物々交換が行われ、都市部では事実上のドル化(ドルでの支払い)が広がり、海外に脱出した親族からの送金が、国に残る家族の生活を支えている。「強いボリバル」はハイパーインフレの前に姿を消し、「国家主権のボリバル」は、皮肉にもマドゥロ政権が敵視する米国のドルの前に完全に価値を失った。(本文より)

------------------------


産油国でありながら、ハイパーインフレの状態とは・・・。

著者はさらに続けます。


<本文引用>------------

経済成長率は二〇一四年以降七年連続マイナス、しかも二○一七年以降は四年連続してマイナス幅が二けたとなり(二○二○年予測値も含む)、その結果、わずか三年で国内総生産(GDP)が半分にまで縮小するといった想像を絶する状況だ。戦時下の国をのぞき、第二次世界大戦以降これはどの経済縮小を経験した国があるだろうか。貧困率は九割を超えた。国家経済の屋台骨である石油部門も例外ではなく、チャベス政権誕生前に三〇〇万バレルを超えていた一日あたりの産油量は、二○二○年五月には六二万バレルと五分の一近くにまで激減した(OPEC月報値)。石油精製部門も稼働率が著しく落ち込んでおり、その結果、国内でガソリンが欠乏し、給油を待つ車がガソリンスタンドを先頭に車に乗ったまま数日間も行列に並ぶことを余儀なくされるという状況だ。(本文より)

------------------------


産油国でありながらガソリン不足・・・。

ハイパーインフレでガソリン不足とはすごい状態です。


ベネズエラの経済危機は、マドゥロ政権で表面化している印象があります。

むしろ、前任のチャベス政権で、将来の経済危機の種がしっかりまかれていたことを紹介します。


<本文引用>------------

チャベス政権の際限なき財政支出と赤字の拡大は先述したとおりだが、実はチャベス政権による支出は、それにとどまらない。チャベス大統領は、国家予算の枠組みとは別に、巨額の資金を別枠で獲得し、政府の一存で支出できる三つの「打ち出の小づち」とその迂回組織というべき仕組みをつくりあげていたからである。そのため、実際の支出額は財政指標で示される数字よりもはるかに大きかった。これらは正式な国家予算ではないため国会で審議されることがなく、その支出理由や基準も不透明で、支出後の報告義務もないブラックボックスだ。(本文より)

------------------------


著者は“三つの打ち出の小づち”を解説します。

まずは、一つ目の小づち。


<本文引用>------------

ひとつはベネズエラ国営石油会社(PDVSA)である。チャベス大統領は「革命的PDVSA」というスローガンのもと、PDVSAを彼が推進する「ボリバル革命」の資金源、そして直接的な担い手として位置づけた。PDVSAに対しては、利権料や石油法人税など法律で制度化された国庫拠出金のルートがある。しかしチャベス大統領はそれに加え、別ルートの資金チャンネルをつくりあげた。

それは、PDVSAに政府の借入を肩代わりさせ、社債を発行させるやり方だ。そしてPDVSAの売り上げや社債発行で獲得した資金を、直接的あるいは国家開発基金(FONDEN)を経由して、政権が推進する社会開発プロジェクト「ミシオン」に拠出させた。後掲の表7-1は、社会開発支出の八割は通常の国家予算の枠組みではなく、PDVSAから支出されていることを示している。つまり、社会開発支出の八割は国会での承認を得ていないということだ。PDVSAは、食料販売から医療プロジェクト、教育プロジェクト、省エネ電球の製造にいたるまで、本業の石油事業とは無関係の多くの事業を担わされてきた。(本文より)

------------------------


次は、二つ目の小づち。


<本文引用>------------

ふたつめの「小づち」は、中央銀行である。チャベス大統領は大統領令で中央銀行法を改正して中央銀行への介入を強め、法律や制度を無視して資金を出させようとした。象徴的なのは、二〇〇四年にチャベス大統領が中央銀行に対して「一〇億ドルぐらい、いいじゃないか」と、公の場で繰り返し強く求めたことだ。そして、このように中央銀行をインフォーマルかつ恣意的に使うことが常態化したことが、のちにマドゥロ政権下のハイパーインフレにつながっていく。

それらの「小づち」からの資金の多くを、国会での承認や説明責任を負わずに流す迂回組織が、国家開発基金だ。石油価格が上昇していた二○○五年に設立され、拡大する石油輸出収入をPDVSAから政府に還流させる迂回組織として機能してきた。同基金は二〇〇五~一二年までの七年間で一〇〇〇億ドル近い石油収入を受け取っており、石油部門から政府に流れる資金の四分の一は国家開発基金経由、公共投資の半分が同じく基金経由と報じられている。

国家開発基金は財務省傘下に設置されたが、事実上チャベス大統領のコントロール下にあり、その運営や支出に関しては国会の審議・承認を経ることはない。支出内容には、通常の国家予算から支出されるインフラ整備や教育・医療プロジェクトなどに加え、アルゼンチンなどチャベス大統領が支援する南米左派政権が発行する国債の購入や、ロシアからの武器購入、またハイリターンをねらって破綻前のリーマンブラザーズ株の購入などにもあてられたと報じられている。(本文より)

------------------------


まずは、三つ目の小づち。


<本文引用>------------

三つめの「小づち」は、国家予算時の想定石油価格をめぐる操作である。ベネズエラでは国家予算策定時に、予算算出ベースとなる想定石油価格を、毎年市場の動きを分析しながら推計する。チヤベス政権は、それを著しく低く設定することで、予算策定価格と実際の輸出価格との差が追加的に特別収入として入る仕組みをつくりあげた。

たとえば、二〇一一年から二〇一四年半ばまで国際石油価格は一バレル九〇~一〇〇ドルを推移していたが、政府は毎年一バレル四〇~五五ドルと、約半分の水準で国家予算を策定していた。その結果、現実に即した石油価格で予算が組まれていれば国会審議・承認の対象となるはずだった石油収入の約半分が、はじめから特別収入に振り分けられる仕組みになっていたのだ。チャベス派が支配する国会の審議も決して政権に対してチェック機能が働いていたとはいいがたいが、これらの「小づち」はもともと制度上チェックの対象にもなっていなかった。

国会で承認された予算額をはるかに上回る資金が、これら制度化されない「小づち」から打ち出され、使途はチャベス大統領の裁量に委ねられブラックボックスとなっていた。このようなインフーマルで不透明な財政運営がチャベス政権期以降常態化し、規模が膨らんだことが、マドゥロ期の経済破綻の理由のひとつである。(本文より)

------------------------


国家予算の多くを生み出す機関(会社)を押さえ、中央銀行を押さえ、国の予算の決定方を押さえていたんですね。

そんなが軍出身。


<本文引用>------------

軍出身のチャベス大統領と異なり、軍出身ではないため軍内部に支持基盤をもたないマドゥロ大統領は、チャベス以上に軍への依存を強めた。経済破綻と支持率低下で政権維持が困難を極めるなか、それでもマドゥロがかろうじて政権を維持できているのは、軍の支持をとりつけているためだ。そのためにマドゥロは軍高官の昇進人事を政治利用するとともに、政治権力や経済的恩恵を軍高官に分配している。

二〇一六年には、マドゥロ大統領は一九五人を将軍に昇進させ、その結果、ベネズエラはおよそ二〇〇〇人の将軍をかかえる国となった。また、閣僚ポストや経済的恩恵(不正によるものも含む)が大きいポストにも、さらに多くの軍人を任命している。二〇一七年一一月には、石油産業の経験がないマヌエル・ケベド将軍に石油大臣およびベネズエラ国営石油会社(PDVSA)総裁を兼任させる人事を発表したが、彼のもとでベネズエラの産油量はわずか一年で半減している。(本文より)

------------------------


アメリカ軍における「将軍(General)」は、主に大将を指します。

アメリカ軍の大将の人数は約40人。

ベネズエラの将軍の数、2,000人がかなり突出した規模だということがわかります。


チャベス大統領、もう怖いものはありませんね。

この状態で企画・実行された計画がのちに石油価格の下落に見舞われ、その直撃を受けた当時の大統領がマドゥロだったというわけですね。


「でも石油が大量にあるならいいじゃないか?」

そんな声も聞こえそうですが、どうもそう簡単にはいかないようです。


<本文引用>------------

は、比重がきわめて重く、石油とはいえ流動性が低くて流れない。そのため、そのままではパイプラインで輸送することも製油施設で精製することもできない。ほかの原油同様に、輸送して製油施設で精製するためには、その前に、比重を軽くして混合物を取り除く改質ブロセスをはさむか、あるいは比重の軽い石油で希釈する(薄める)必要がある。つまりオリノコ超重質油は、原油として扱うためには追加技術やコストがかかる特殊な原油で、そのため「非在来型原油」と呼ばれる。ベネズエラが世界最大の石油埋蔵量をもつというのも、その特別な石油が大半であるという点をふまえる必要がある。

このように追加コストがかかることから、オリノコ超重質油は在来型原油よりも競争力が低い。そのため、とくに国際石油価格が低迷していた一九八○年代後半から九○年代には、膨大な埋蔵量があることは知られていたものの、開発が遅れていた。オリノコ超重質油の開発が進んだのは、チャベス政権前の一九九〇年代に、外資の資金と技術力を使ってオリノコ超重質油開発を進めようと、 条件で外資誘致を進めた結果である。(本文より)

------------------------


オリノコ超重質油。

石油と言っても色々な種類があり、その性質が国家の命運を左右するのですね。


ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は、アメリカから多大な経済制裁を受け、一時は国内でクーデター未遂や政変の危機が何度も報じられました。普通であればいつ崩壊してもおかしくない状況ですが、マドゥロ政権は今なお権力を維持し続けています。

では、なぜこれほどの極限状態にありながら、この政権は安定(存続)できているのでしょうか。

著者は、マドゥロ政権下のベネズエラ政府が構築した、独自の権力構造と生存戦略のメカニズムを詳しく解説します。


<本文引用>------------

また、権力が集中し、法の裁きを受けない状況ができあがると、汚職が広がり、権力に加え富もみずからに集中させるインセンティブが強く働く。そうすると、政権の継続がますます重要となる。経済政策、社会政策、外交政策も、国の発展や社会的公正をかなえるためではなく、政権維持や利権獲得を目的に行われるようになった。

権力を集中させた非民主的な政治が、政権維持のためや権力者らによる富の収奪のための経済制度を生み、それが経済の衰退につながる。これはベネズエラに限ったことではない。世界各地の歴史を通した多数の事例を比較分析した研究においても、同じ結論が導かれている。

汚職や麻薬取引、あるいは拷問や人権弾圧などの人道的犯罪に手を染めてきたチャベス派幹部や軍の高官らは、政権が交代すると法の裁きを受けることが必至である。麻薬取引などの国際的犯罪の場合は、米国に身柄が移され、そこで法の裁きを受ける可能性もある。それゆえ、彼らは是が非でもチャベス派政権を死守しなければならない。厳しい状況にもかかわらずマドゥロ政権が継続しているのは、軍の支持が揺るがないからだが、その背景にはこのような理由もあると考えられる。(本文より)

------------------------


ベネズエラ。

2021年の「腐敗認識指数」は177位です。

最下位が180位ですから、かなりワースト上位に食い込んでいます。

2023年の「脆弱国家ランキング」は30位です。

こちらもかなり上位に食い込んでいます。


◆頭の中でシンクロした他の完読作品

『ベネズエラ-溶解する民主主義、破綻する経済』

『中央公論2026年3月号』


――――――――――――

■読んだきっかけ:『中央公論2026年3月号』中央公論編集部

■読んで知ったこと:チャビスタ(チャベス派)政権。

■今度読みたくなった作品:『チャベス政権下のベネズエラ』坂口安紀

――――――――――――


1211_ベネズエラ-溶解する民主主義、破綻する経済.png

ベネズエラ―溶解する民主主義、破綻する経済 (中公選書) - 坂口安紀
ベネズエラ―溶解する民主主義、破綻する経済 (中公選書) - 坂口安紀






Bookstart2.jpg



『算数障害がわかる本 解けない理由と支援のしかた』

算数の4つの領域、①数処理、②数概念、③計算、④数的推論。


大学時代、アルバイトで家庭教師をしていました。

その中で、とても記憶に残っている生徒がいます。

中学2年生でしたが、掛け算の九九ができませんでした。

しかし、親御さんは「何とか普通の高校に行かせたいんです」と私に言いました。

勉強時間は午後6時から8時までの2時間。

私は550分くらいに訪問し、6時になると「さあ、始めようか」と、その子を勉強部屋に促していました。

しかし、ある時期から私が「さあ、始めようか」と言うと、「僕、トイレ!」と言ってトイレに逃げ込み、そのまま30分くらい出てこなくなりました。

結果として実質の勉強時間は1時間半になっていましたが、時給はしっかり2時間分いただいていました。

中学2年生で掛け算九九から教えるわけですから、当然、中学の数学のレベルには間に合いません。その子が理解できるレベルから根気強く教える状態でしたが、もちろん数学だけでなく、国語も英語もできませんでした。

最初は「割がいいな」としか思っていませんでしたが、途中から「なんで、この子にここまで勉強を強いるんだろう」と、自分自身に後ろめたさを感じるようになりました。


――――――――――――

書名:『算数障害がわかる本 解けない理由と支援のしかた』

著者:熊谷恵子(監修)

出版:講談社(2025.09)

――――――――――――


著者は筑波大学名誉教授、臨床心理士、公認心理師、言語聴覚士、特別支援教育士スーパーバイザー。

「算数ができない」のメカニズムを明らかにし、こうした人たちへの支援方法を提案します。


まずは算数の学習内容を解説します。


<本文引用>------------

算数の4つの領域でつまづく

算数には4つの領域があり、順番に身につけていくことで理解が進みます。

ところが、認知のアンバランスがあるとその習得がうまくいきません。(本文より)

------------------------


4つの領域とは何か?


<本文引用>------------

4つの領域の習得がうまくいかない

算数には、「数処理」「数概念」「計算」「数的推論」という4つの領域があります。認知のアンバランスがあると、これらがスムーズに習得できなくなります。(本文より)

------------------------


4つの領域。

①数処理

②数概念

③計算

④数的推論


さらに、各領域がどんな内容で、領域間でどんな関係性があるかを解説します。


<本文引用>------------

積み重ねて習得する

算数は理解を積み重ねて、学習が進む。算数の4つの領域は、数処理から順に習得する



数的推論

文章問題を読み、内容をイメージして数の操作や変化を推し、自分で計算式を立て、答えを導き出す(→P48)

 ↑

計算

たし算・ひき算・かけ算・わり算など、数と数を操作して暗算や筆算ができるようになる(→P46)

 ↑

数概念

「序数性(数に順序があること)」「基数性(数が量を示すこと)」という2つの数の性質を理解する(→P44)

 ↑

数処理

「ひとつ・ふたつ・みっつ」などの数詞や、「1・2・3」というような数字を覚え、モノ(具体物)と対応させる(→P42)


(本文より)

------------------------


①数処理 :

  「ひとつ・ふたつ・みっつ」などの数詞や、「1・2・3」というような数字を覚え、モノ(具体物)と対応させる

②数概念 :

  「序数性(数に順序があること)」「基数性(数が量を示すこと)」という2つの数の性質を理解する

③計算 :

  たし算・ひき算・かけ算・わり算など、数と数を操作して暗算や筆算ができるようになる

④数的推論 :

  文章問題を読み、内容をイメージして数の操作や変化を推し、自分で計算式を立て、答えを導き出す


この4領域がバランスよく理解している状態が「算数ができる」ということなんですね


確かに算数の教科書って

 [①数処理]→[②数概念]→[③計算]→[④数的推論]

って順番で進んでいったような。


こうやって考えると、教科書って、こうした教育心理学の研究成果に沿って作られていることがわかります。

しっかり作られているんですね。


こうして算数を領域で整理していくことで、「算数が苦手」といった漠然とした表現が、「算数の○○の領域が苦手」のように、「苦手」の解像度があがりますね。

で、解像度が上がれば、必要な対処方法がより適切になります。


「【ケース③小学校3年生のCさん】計算はできるのに、「およそ」がわからない」では、こんな風にアドバイスしています。


<本文引用>------------

数概念につまずいているのかも


数には、順序を表す「序数性」と、量を表す「基数性」 がある。量のイメージが難しいCさんは、基数性につまずきがあると考えられる ⇒ 詳しくはP45(本文より)

------------------------


「【ケース⑥小学校2年生のFさん】計算は得意なのに、文章問題になると固まる」では、こんな風にアドバイスしています。


<本文引用>------------

数的推論につまずいているのかも


文章問題を解くときに必要なのは「数的推論」の力。数的推論はいくつかのプロセスを踏んで答えを出すもの。Fさんはプロセスのどこかでつまずいていると考えられる ⇒ 詳しくはP48(本文より)

------------------------


安全な日常生活を送るうえで欠かせない知識「算数」。

本作は、このような最低限の「算数」の知識を子どもたちに、子どものうちに、授けようとする教育関係者の取り組みが伝わってきます。



◆頭の中でシンクロした他の完読作品

『算数障害がわかる本 解けない理由と支援のしかた』

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』  

『ケーキの切れない非行少年たち』


――――――――――――

■読んだきっかけ:『こども統計学 なぜ統計学が必要なのかがわかる本』 バウンド(著)、渡辺美智子(監修) 

■読んで知ったこと:算数の4つの領域、①数処理、②数概念、③計算、④数的推論。

■今度読みたくなった作品:『ワーキングメモリを生かす指導法と読み書き教材―学習困難な子どものつまずき解消!』河村暁

――――――――――――


1210_算数障害がわかる本 解けない理由と支援のしかた.png


算数障害がわかる本 解けない理由と支援のしかた (健康ライブラリーイラスト版) - 熊谷恵子
算数障害がわかる本 解けない理由と支援のしかた (健康ライブラリーイラスト版) - 熊谷恵子






Bookstart2.jpg