『中央公論2026年5月号』

レアアース市場で中国が台頭している背景。

「石油」と並び、経済安全保障の文脈でたびたび話題に上がる「レアメタル」と「レアアース」。
特に最近は、レアアースへの注目が顕著に高まっているように感じられます。
実際にGoogle検索で期間を指定し、ヒット数の推移を調べてみました。
 2020年:約 37,100 件
 2021年:約 40,000 件
 2022年:約 57,200 件
 2023年:約 63,700 件
 2024年:約  90,800 件
 2025年:約 182,000 件
2023年頃からヒット数が大幅に増加しており、2025年は2020年と比較して約5倍にまで達しています。

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書名:『中央公論2026年5月号』
著者:中央公論編集部
出版:中央公論新社(2026.04)
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本誌は中央公論新社が発行する月刊総合雑誌。
本号の特集は
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特集:甦る帝国主義、引き裂かれる世界
特集:「高市一強」下の日本政治
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です。

特集「甦る帝国主義、引き裂かれる世界」の「〔座談会〕日本は最悪の事態に備えよ 米中露「勢力圏」のゆくえ」。
細谷雄一氏(慶應義塾大学教授)、森聡氏(慶應義塾大学教授)、小泉悠氏(東京大学准教授)による座談会です。

アメリカトランプ政権が見ている世界を解説します。

<本文引用>------------
森  同感です。トランプ外交の本質 はリベラルな価値拒絶、一国主義、利益誘導です。力を背景に経済的利権を追求し、政治体制の異なる大国との取引も厭わない。西半球とインド太平洋は「うまみのある地域」なので、中露と競争し現状変更を拒否します。他方、欧州は「うまみのない地域」なので、現状変更拒否へのこだわりが弱く、勢力圏の相互承認になびきやすいのかもしれません。(本文より)
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細谷氏は、ここから「現代の帝国主義」に話を展開します。

<本文引用>------------
細谷  時代によって「帝国主義」の意味合いは異なります。20世紀の日本では左派知識人たちが、ベトナム戦争を行う米国をマルクス=レーニン主義的な経済構造から説明し、その帝国主義を批判しました。その後、ソ連崩壊によって冷戦期の二極化体制が崩れ、圧倒的な軍事力・経済力を有する米国の単極体制が成立し、イラク戦争を起こした米国が帝国と位置づけられました。
21世紀の帝国を特徴づけるのは、核戦力だと思います。20世紀をかけて世界が育んできた法の支配による国際秩序は根底から崩れ、経済的には大国と言えないが核を持つロシアが立場を強める一方、ロシアの約10倍もの経済力を持つEUが弱小な存在となっている。15世紀に日中が大英帝国の砲艦外交に屈したように、今後の英仏日は、米中露の核による威嚇や恫喝の前で弱い立場に置かれることになるでしょう。かつて反帝国主義だった米中露が核戦力を持つ「新しい帝国」となり、植民地帝国だった英仏日が法の支配に基づく国際秩序を擁護する、という逆転が起きています。(本文より)
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そんな「現代の帝国主義」を感じさせる現在の国際関係。
ここで頻繁に登場してくるのが「レアアース」です。

昔は「レアメタル」というワードのほうを目にしたような気がしましたが、最近は「レアアース」のほうが見かける量が増えたような印象があります。

「​レアメタル」と「レアアース」が違います。
「​レアメタル」31種のうち、化学的性質が似ている17種類の元素をまとめたものが「レアアース」です。

特集「「高市一強」下の日本政治」で清水孝太郎氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社主席研究員)が寄稿する「南鳥島周辺開発の希望と限界 日本の「レアアース」政策に切り札はあるか」。

レアアースとはいったい何なのか?
レアアースの活用における日本人の関わり。
中国のレアアース戦略。
レアアース依存の解消とそれがもたらす新たな問題。
これらを一気に解説してくれます。

<本文引用>------------
英語でレアアースと称されることから稀(レア)であると認識されることが多いが、実は地質学的にはさほど「レア」ではない。地球表面の地殻存在比でみると、鉛や錫よりも高いものが多い(丸善『理科年表』)。個別の元素に単離させるのが難しいことや、放射性元素を随伴して産出するといった点から「レア」という言葉が冠されているが、希土類元素そのものは自然界に豊富に存在している。(本文より)
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豊富に存在するものが、なぜ「レア」になるのか。

<本文引用>------------
自然界ではこれらがまとまって産出するほか、これらを単離する技術が長らく開発されなかったため、まとめて扱われることが多かった。単離することが難しく、高度な分離精製技術を必要とする点が、その他レアメタルと大きく異なる点である。なお、日本では政府の鉱業審議会(当時)で定めたことを契機として、地球上の存在量が少ない、または抽出が技術的・経済的に困難で、工業需要があり安定供給が政策的に重要な非鉄金属を「レアメタル」と呼称している。(本文より)
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「存在量が少ないからレア」ではなく、「抽出が技術的・経済的に困難だからレア」なんですね。
なぜ、抽出が技術的・経済的に困難なのか?

<本文引用>-----------
自然界では化学的性質の似ている元素が様々な地質学的作用を受けて濃集し、それが鉱床を形成している。希土類元素も例外ではなく、希土類鉱床では17種類の希土類元素がまとまって産出するほか、一部の例外を除いてウランやトリウム等が一緒に産出する。これがその他レアメタルとは異なる二つ目の点である。希土類資源の開発では、特殊な鉱床を除き、常に放射性元素の安定処理という問題がつきまとう。これが開発を難しくさせている背景でもある。(本文より)
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放射性元素の安定処理とは何か?
放射性元素の安定処理とは、「不安定で放射線を出し続ける物質を、人間や環境に影響を与えないよう、長期間にわたって安定した状態(漏れ出さない形)で閉じ込めること」です。
放射能。
これは、結構、大変そうです。

<本文引用>------------
1990年代、中国産希土類の世界シェアは30%程度に過ぎなかったが、中国がWTOに加盟した2000年代には85%まで上昇し、2010年の尖閣諸島中国漁船衝突事件の頃には実に97%に達していた。この背景として、低廉な製造コストのほか、政府が周辺住民を強制的に疎開させるなどして、放射性元素の安定処理コストをほとんど負担せずに済んだ、世界最大規模の希土類鉱山である内蒙古白雲鄂博鉱山の存在、重希土類に富み放射性元素を随伴したい大量のイオン吸着鉱の存在、中国政府による積極的な投資誘致がある。これにより、中国は希土類の供給大国へとのし上がったほか、日本等海外企業の技術をうまく取り込むことで国内の希土類産業を育成することにも成功した。2010年の対日希土類禁輸措置以降、中国以外の希土類鉱山の開発が進み、希土類サプライチェーンの上流域における中国企業のシェアは低下傾向にあるが、それでもまだ中国の存在感は大きい。特に希土類鉱石から希土類元素を単離し、そこから工業原料となる地金や合金、また化合物へと加工する中流域のブロセスは、依然として中国に集中している。(本文より)
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こうした背景をもとに、レアアース市場で中国が台頭します。

<本文引用>------------
現在のところ、中国は世界最大の希土類供給国として知られるが、1970年代以前は、米国や日本が世界における希土類サプライチェーンの中心であった。中国政府が自国の希土類資源に着目したのは早く、1950年代には、当時の首相であった周恩来氏が希土類資源に着目した産業発展のあり方に触れている。北京地質大学を卒業した温家宝首相は資源問題に明るく、1987年には「稀土資源の開発、利用、管理に関する建議」を発表した。1992年、鄧小平氏は南巡講話のなかで「中東には石油がある、中国には希土類がある(中东有石油、中国有稀土)」と述べた。中国語で韻を踏むこの明瞭なメッセージは、その後、中国における鉱物資源政策の基本指針となったほか、中国が希土類大国であることを世界に知らしめるきっかけにもなった。(本文より)
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このレアアース。
需給バランスが大切なんですね。

<本文引用>------------
17種類ある希土類元素は、軽希土類と重希土類に分けられる。希土類元素は自然界でまとまって産出すると述べたが、各元素の産出比率は鉱床によって大きく異なる。大半の希土類鉱床は軽希土類に富むものが多く、重希土類を高品位で含むものは少ない。重希土類を商業的に大量生産しているのは中国である。軽希土頼は中国以外でも商業生産されており、一部の元素はしばしば供給過剰の問題に直面する。希土類元素全てを合わせた世界需要は、積載貨物重量が約8万トンとされるパナマックスタンカーで4~5隻分(約30~40万トン)ほどに過ぎず、重量では鉄鉱石のわずか6500分の1程度である。そのため、希土類資源の開発では豊富に産出する軽希土類をいかにさばいていくかが、鉱山の採算性を確保していくための鍵となる。これがその他レアメタルとは異なる三つ目の点である。中国の強みは、希土類資源に富むという地質学的事情もさりながら、様々な製造業が集積することで、常に希土類の安定需要を維持できているという点も大きい。(本文より)
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放射性元素の安定処理に配慮し(その基準は国によって様々ですが)、さらに需給バランスにも目配せをしながら抽出されるレアアース。
この物質を真に「レアアース」たらしめたのは、その革新的な活用方法にあります。
実は、その活用法を見出した技術者の多くに日本人がいたことが紹介されています。

<本文引用>------------
第二次世界大戦後に開発されたこれら希土類の用途技術や生産技術は、多くが日本人技術者の手によって生み出されてきた。代表的なものとして、カラーテレビの蛍光体(日立製作所「キドカラー」、1968年)、鉄フェライト磁石よりも強力な磁石として登場したサマリウム・コバルト磁石(歌人、俵万智氏の父親の俵好夫博士、1976年、サマリウム・コバルト磁石を超越する強力磁石として登場したネオジム・鉄・ホウ素磁石(エリザベス女王工学賞受賞の佐川眞人博士、1982年)、高性能ネオジム・鉄・ホウ素磁石の製造には必要不可欠な金属組織微細化を実現する磁石合金製造プロセス(「ストリップキャスト法」を開発した株式会社三徳の岡田力氏、1992年)などがある。(本文より)
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キドカラー!
私は1967年生まれですが、このワードはCMでよく見かけた記憶があります。

最近の情勢を見て「突然輸出規制されるようなレアアースなんて、いっそのこと使わなければいい!脱レアアースだ!」と主張する声も聞かれます。
しかし、清水氏はそのような短絡的な思考に「待った」をかけます。

<本文引用>------------
これら用途のうち、重希土類を使用するものは、その商業的供給が中国に集中していることから、使用できなくなった場合の影響が懸念されている。一方、軽希土類は中国以外からも供給可能であり、これが入手困難になる可能性は低いとみられている。同じ希土類元素でも軽希土類と重希土類とでは、抱える供給リスクは異なる。(本文より)
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供給リスクは軽希土類と重希土類とでは異なるようです。

<本文引用>------------
技術者の育成は、鉱山開発よりも長い時間が必要であることを考えると、日本が守るべきは希土類技術に関わる知見や経験、またそれを伝える人材である。「脱中国=脱希土類」ではなく、中国に振り回されずに希土類技術の強みを日本の発展や人材育成に活かすことのできるような、強靭なサプライチェーンの構築が必要である。(本文より)
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これらを読み進めるだけで、レアアースやレアメタルへの理解が一気に深まる、非常に読み応えのある寄稿でした。

特に、レアアースを論じる上で「脱中国=脱レアアース(希土類)」という単純な図式に陥ってはいけないという提言。
同感です。

これと同様に、国際政治の文脈でたびたび登場する「ダブル・スタンダード」という概念も、決して単純には割り切れない難しさを含んでいます。
国際政治学者の鶴岡路人氏は、連載「時評2026」の「ダブル・スタンダード批判はなぜすれ違うのか」において、その複雑な構造を鮮やかに解説しています。

<本文引用>------------
米国およびイスラエルによるイラン攻撃が国際法違反であることは、現在明らかになっている情報に基づく限り確実にみえる。その観点で非難される必要がある。
しかし、日本政府はイラン攻撃に関する国際法上の評価に口をつぐむ。そして、筆者を含む一部の専門家やメディアの多くも、ウクライナ全面侵攻をおこなったロシアと同じようには米国を批判しない。そうした姿勢に対しては、「ダブル・スタンダード(二重基準)」だとの批判がなされる。しかし、問題はそれほど単純ではない。(本文より)
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「ダブル・スタンダード」。
何を基準にするかによって、全然見方が変わってくるんですね。

<本文引用>------------
武力行使の始まり時点の違法性のみに注目し、ロシアと米国を同様に批判しないのはダブル・スタンダードだという議論もまた、ダブル・スタンダードの罠にはまっている。他の重要な要素を同じ基準で判断し、考慮に含めようとしないからである。とはいえ、国際社会における法の支配の促進を掲げるとすれば、日本政府も、法的評価を避けるだけではなく、違法性を認めたうえで他の考慮要素とのバランスをより説明する努力が求められる。
なお、今回の事態については、武力行使の違法性に加え、当然経る必要のある徹底的なリスク評価や計画策定といった米国政府内のプロセス、さらには同盟国の支持取り付けという外交がほとんど存在しなかったことが問題だ。作戦の目的の説明が二転三転するのも深刻であり、 同盟国の間でも懸念が広がった。そして、このような米国と共にあることのコストが高まることになる。法律論では完結しない課題だ。(本文より)
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シンプルで単純なメッセージ。
これはこれで大切ですが、この罠に嵌まらないよう、気を付ける必要がありますね。


◆頭の中でシンクロした他の完読作品
『中央公論2026年5月号』

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■読んだきっかけ:『中央公論2026年4月号』中央公論編集部
■読んで知ったこと:レアアース市場で中国が台頭している背景。
■今度読みたくなった作品:『中央公論2026年6月号』中央公論編集部
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中央公論2026年5月号 [雑誌] - 中央公論編集部
中央公論2026年5月号 [雑誌] - 中央公論編集部





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