『食料安全保障の研究 襲い来る食料途絶にどう備えるか』

農協(JA)、農林族議員、農林水産省による「農政トライアングル」。

2025年3月中旬から政府備蓄米の放出がはじまりました。
この文を書いている2025年のGW、お店の店頭を見ると、「価格が下がった」や「店頭に並ぶようになった」とは、なかなか言えない状況が続いています。
この「備蓄米」とは、コメの生産量が大幅に減った場合に備えて、法律に基づいて国が保管している主食用のコメのこと。
10年に1度の深刻な不作や2年連続の不作にも対応できるよう、毎年約20万トンずつ、合わせて5年分=100万トン程度が全国300余りの倉庫に保管されているのだそうです。
では、この「備蓄米」が使われたことはあるのか?
2011年以降、主食用のコメとして備蓄米が活用されたケースが2回ありました。
1回目は2011年の東日本大震災の際に被害を受けた流通業者向けに4万トン、2回目は2016年の熊本地震の時に熊本県におよそ90トンがそれぞれ販売されました。
ちなみに今回のように、主食用米が不足したことで備蓄米を放出したケースはこれまでないそうです。

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書名:『食料安全保障の研究 襲い来る食料途絶にどう備えるか』
著者:山下一仁(著)
出版:日経BP 日本経済新聞出版(2024.12)
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著者は元農林水産省官僚のキヤノングローバル戦略研究所研究主幹、経済産業研究所上席研究員(特任)。
コメの生産を中心に日本の農業政策問題点を指摘します。

今回のコメ不足で耳にすることの機会が増えたキーワード「食料安全保障」。
先進国各国の取り組みはどうか?

<本文引用>------------
先進国はどうか。アメリカ、カナダ、欧州連合(EU)、オーストラリアといった先進国は、生命・身体の維持に必要なカロリーを供給する穀物や大豆などの輸出国でもある。国内の生産が不作になっても、消費が増えても、輸出量を少なくすれば国内への供給に問題はない。1993年と2024年に日本で起きたようなコメ不足は生じない。国内消費以上に生産して輸出していれば、輸出で調整できる。食料自給率は生産を消費で割ったものだから、輸出すれば100%を超える。穀物などの農産物が食料費に占める割合は10%程度なので、穀物価格が高騰しても食料費はわずかしか上昇しない。これらの国では低所得層を除いて食料安全保障は問題ではない。(本文より)
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輸出を調整弁にして、国内消費が足らなければ、輸出を減らし、国内消費を維持するんですね。
こう考えると、日本のコメの生産調整って、結構危なっかしいですね。

この危なっかしい農政を主導するのが、そこでの既得権を持つ人たち。
それを著者は「農政トライアングル」と呼びます。

<本文引用>------------
読者は、農林水産省で勤務した私がなぜ同省の政策を批判するのか不思議に思われるかもしれない。それは既得権者に奉仕するものであって、国民の利益を大きく損なうものだからである。私だけでなく、JA農協や農林族議員の言うままになっている現在の農林水産省を快く思っていない職員や同省OBも少なくない。
実は、JA農協は農林省が作り保護してきたもので、戦後しばらくの間大きな政治運動は行わなかった。しかし、1961年農業基本法によって農家の規模拡大による構造改革が推進されようとすると、JA農協はすべての農家を平等に扱う一人一票制の組織原理からもこれを選別政策として批判した。JA農協は、農林族議員の力も利用して農林省と対立し、米価を上げて農家所得を増やそうとした。その後は農林水産省内に構造改革をめぐる対立が生じた。構造改革をして農家戸数を減らすより、農家戸数が多いほうが予算獲得にも都合が良いという人たちが増えてきたのである。 農政トライアングルが形成されたのは、最近のことである。(本文より)
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「農政トライアングル」のプレーヤーは次の3社。
まずは、農協(JA)。零細農家の利益を守る役割を持つ一方で、米価を高く維持することでその利益を活用しています。
次に、農林族議員。農村の票を集める政治力を背景に、政策決定に強い影響を持つ存在です。
そして最後が、農林水産省。予算獲得と農業政策実施を担いつつ、これらの他のプレーヤーと連携して活動しています。

「農政トライアングル」
  農協(JA) ←→  農林族議員
   ↖         ↗
    ↘       ↙
      農林水産省

こうした既得権に基づく「農政トライアングル」は様々な無駄や非効率を生み出します。
その無駄や非効率の一つは農協(JA)。

<本文引用>------------
JAバンクの貯金量は109兆円に上る。以前から、JAバンクの貯貸率(預金に対する貸し出しの比率)は3割程度であり、他の銀行に比べて著しく低いことが指摘されてきた。JAは、准組合員向けの住宅ローンや自動車ローン、農家が農地転用した土地に建設するアパート建設資金への融資などで努力しているが、30兆~40兆円程度しか融資できない。
この結果、融資できていない60兆円超の運用を任せられた農林中金は、日本有数の機関投資家として海外有価証券市場で大きな利益を上げ、預金集めの見返りとして傘下のJAに毎年3000億円の利益を還元してきた。2024年、JAが簡単に1・3兆円の資本増強に応じるのも、今までの受益の蓄積があるからだ。逆に、JAに利益を還元するためには、国内ではなく収益の高い海外で運用するしかなかった。しかし、農林中金の2025年3月期の最終赤字額が、2024年にFRB(米連邦準備制度理事会)がインフレ抑制のため金利をなかなか引き下げず債券価格が低下したことに伴う外国債券の損失処理により1兆5000億円規模に拡大する見通しとなり、今までどおりの資産運用はできなくなっている。 
2024年のJAの収益は、信用(銀行)事業で2425億円、共済(保険)事業で1160億円の黒字、これに対して、農業関係事業は1223億円、生活・その他事業は229億円の赤字である。JAの農業関係事業は零細な組合員のために農業資材を供給したりするので非効率でコスト高なものにならざるを得ない。それを金融事業から補填している。これも零細な農家組合員の維持につながり、JAの金融事業の基盤になっている。(本文より)
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農業関係事業が1223億円の赤字とは・・・。

他方、
TVの報道を見ると、農作業をしている人にマイクとカメラを向けます。
そして、出てくるコメントは「農業は儲からない」。
私、こうした街頭コメントのような個別インタビューは、あまり信頼していません。
なぜなら、報道側が自由に映像やコメントを取捨選択できるからです。

日本のコメ農家の特徴として挙げられる「自給的農家」。

<本文引用>------------
農林省は孤立した。高度成長で労賃が上昇するなかで、農協は「米価は農民の春闘(労賃引き上げ)だ」と叫び、生産者米価引き上げの大政治運動を展開した。規模を拡大してコストを下げて所得を上げるという間接的な方法より、米価を上げたほうが手っ取り早く所得を上げられる。政治家も票田を意識して支援した。自民党やJA農協の政治力に押され、農政は構造改革ではなく食糧管理制度を利用した生産者米価引き上げに走った。同時に、都市との格差是正のため、 1962年に新産業都市建設促進法が制定され、地方に工場が積極的に誘致された結果、農家は農村に居ながら工場に勤務できるようになった。
これらが零細兼業農家にコメ作りを継続させた。農業には、「経営耕地面積が30a未満かつ農産物販売金額が50万円未満」と定義される自給的農家が多数存在する。自給的農家のほとんどはコメ農家で、作ったコメを家庭で食べたり、親類や友人などに縁故米として譲渡したりするものが多い。総農家戸数174万7000戸のうち自給的農家は7万9000戸で41%も占めている(2020年)。(本文より)
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うーん、なんか、家庭菜園みたいです。
家庭菜園やっている人から「儲かって儲かってしょうがない(笑)」なんてコメントが出てくるはずはありませんよね。

でも、なんで「自給的農家」は無くならないのか?

<本文引用>------------
自給的農家が多数を占めるのはなぜか? 1俵当たりコストが1万5000円で生産者米価が5000円だとすると、コメを作れば1万円の赤字となる。コメを作らなければ、2000円の地代を得て町で小売価格8000円のコメを買うと、6000円の支出(赤字)で済む。コメを作らないほうが得だ。ここで生産者米価が1万円に引き上げられると、コメ作りの赤字は5000円に縮小する。町の小売価格も1万3000円に上がる。コメ作りをやめて2000円の地代を得ても、町でコメを買うと1万1000円の支出(赤字)になる。自分でコメを作ったほうが赤字は少ない。零細農家が赤字でもコメ作りをやめないのは高米価のためである。よくある農業界の主張のように、「これらの農家は低米価で肥料や農薬代などのコストを賄えないのに、あえて国民のためにコメを作っている」のではない。経済合理的に考え、米価が高いからコメを作っているのである。さらにコメ農業の赤字を損金算入して給与所得者として納付した税の還付を受ければ、ここでも利益が出る。(本文より)
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「自給的農家」の存在が農協(JA)を太らせます。

<本文引用>------------
さらに、機械化の進展で米作への投下労働時間が大幅に減少し、工場勤務者などの週末労働だけでコメは簡単に作られるようになった。こうして、農村に零細な兼業農家が大量に滞留してしまい、主業農家の規模拡大は実現しなかった。
米価が市場に任せられていれば、他の農業と同様に零細な農家は農業をやめて、農地を主業農家に貸し出し、地代所得を得ようとするはずだった。米価引き上げは、兼業農家の滞留、コメ消費の減退、コメ過剰による減反の実施をもたらし、コメ農業を衰退させた。
1965年以降、農業以外の給与所得と農業所得を合わせた農家所得は、勤労者世帯を上回るようになった。しかも、農家所得のほとんどは給与所得となった。農工間の所得格差是正は、農業の構造改革ではなく、農家の兼業化(給与所得)によって実現した。この兼業収入はJAバンクの口座に振り込まれ、JAバンクは日本有数の預金量を持つメガバンクに発展した。(本文より)
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そして、「自給的農家」の存在を、何が何でも「1票」を積み上げたい、国会議員(農林族議員)がその政策を後押しするんですね。

今回のコメ不足。
今後の食料安全保障を踏まえた農業政策への転換のきかっけになることを願うばかりです。


◆頭の中でシンクロした他の完読作品
『食料安全保障の研究 襲い来る食料途絶にどう備えるか』  
『月刊正論20255月号』 

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■読んだきっかけ:YouTubeチャンネル「著者が語る」 
■読んで知ったこと:農協(JA)、農林族議員、農林水産省による「農政トライアングル」。
■今度読みたくなった作品:『日本が飢える! 世界食料危機の真実』山下一仁
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山下一仁食料安全保障の研究 襲い来る食料途絶にどう備えるか
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