『バブル兄弟 ‶五輪を喰った兄〟高橋治之と〝長銀を潰した弟〟高橋治則』

サラリーマンになりながらその枠にとらわれないサラリーマンとは。


私は19904月、当時13行あった都市銀行の一行に入行しました。

就職活動は銀行に絞って準備していたのですが、当時の大手銀行と言えば、都市銀行のほかに、長期信用銀行という銀行がありました。

長期信用銀行(長信銀)は、日本興業銀行と日本長期信用銀行と日本債券信用銀行の3行。

当時の就職活動ではOB訪問を通じて企業に接触するのですが、大学の就職課にあるOBファイルを見ても、長信銀のOBは卒業年度1年に1人。

私は中央大学の学生だったのですが、あまりにOB情報が少ないので、同じ、銀行志望の友人に

「ねえ、うちのOBって長信銀に何で少ないのかね?」

って聞いてみました。

すると友人が

「お前知らないの? 長信銀って殆ど東大から入るんだから、ウチの大学なんて相手にしてもらえないよ。」

と教えてくれました。


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書名:『バブル兄弟 ‶五輪を喰った兄〟高橋治之と〝長銀を潰した弟〟高橋治則』

著者:西﨑伸彦(著)

出版:文藝春秋(2025.01)

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著者は元「週刊ポスト」 記者で元「週刊文春」記者のフリーライター。

不動産バブルと五輪バブルの渦中にいた兄弟を足跡を追います。


高橋兄弟とはどんな兄弟なのか?


<本文引用>------------

幼稚舎から慶応の高橋兄弟。治之は高校時代から高級外車を乗り回し、自宅で盛大なバーティーを開いていた。かたや治則は“ある事件”によって、退学処分を食らってしまう。


一九六一年に公開された映画「大学の若大将」は、若大将シリーズの記念すべき第一作である。主人公は慶応大出身の加山雄三。加山が演じる老舗すき焼き屋の長男が、水泳で五輪を目指し、時代を先取りしたアメリカ風のキャンパスライフを送る。その眩しい姿は、当時の若者の憧れの的だった。敗戦から復興を遂げた日本が、「岩戸景気」で勢い付き、世界に例を見ない高度経済成長期を迎えていく活力ある時代の理想像を表していた。

その前年の四月、高橋治之は慶応義塾高校に入学した。男子校の慶応義塾高校は通称、“塾高”と呼ばれ、ほぼ全員が推薦で慶応大学に進学できる。そのため、クラブ活動や趣味に伸び伸びとした三年間を過ごせる自由な校風で知られる。幼稚舎から慶応普通部を経て、順当に塾高に進んだ治之は、その自由を謳歌するように四月に十六歳になると、すぐに自動車免許を取得。時に父・義治の目を盗んで、イギリス車オースチンを運転し、日吉の地下壕周辺のスペースに車を停めていた。

塾高の同級生が振り返る。

「あの頃は、車で塾高に通う学生が結構いました。彼も時々親に無断でオースチンを持ち出し、父親から『俺が乗ろうと思っていたのに』と怒鳴りつけられたと話していました」

その後ろ姿を追うように、弟の治則も塾高に入ると「軽免許」を取得した。当時は、軽自動車用の免許が制度化されており、十六歳から軽自動車の運転が可能な免許を軽免許と呼んだ。義治はのちに、大学生になった治之にはセドリックを、軽免許の治則にはスバル車を買い与えた。

白黒テレビと冷蔵庫、洗濯機が「三種の神器」と呼ばれた時代。高校生で高級外車を乗り回す治之は、加山が演じた映画の主人公さながらに時代の最先端を行く『慶応ボーイ』だった。

治之の幼稚舎時代の同級生には、昭和天皇の初孫として知られた東久邇信彦や世界的ピアニストとなった中村紘子らがいた。とくに旧皇族の竹田家の次男で、伊藤忠理事からブルガリア大使も務めた竹田恒治とは竹馬の友だった。竹田家は五人きょうだいで、恒治の三歳下の末弟が、のちにJ OC会長になる竹田恒和だ。(本文より)

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生まれも育ちもよく、生粋の慶応ボーイなんですね。


ただ、面白いのはお二人とも誰もがうらやむ一流企業に勤めながら、そのサラリーマンの枠にとらわれない行動力を見せます。


やがて、弟の高橋治則氏は会社を辞め、実業家に転身します。

そこで、慶応人脈が登場します。


<本文引用>------------

八五年十一月、「イ、アイ、イ」社長の治則と代表の河西宏和は一台の社用車で、静岡県の旧韮山町にある温泉治療施設に向かっていた。そこには甲州財閥に連なる東武鉄道創業家の御曹司が、長期療養で滞在していた。治則と河西は東武鉄道と合弁で「東武航空貨物」を設立。その御曹司を出向者として受け入れており、片道約三時間をかけて見舞いに出掛けたのだ。

用事を終えた帰路、横浜市内に自宅がある河西が先に降り、車は治則だけを乗せて東京方面へと走り去った。河西が歩いて横浜の高島屋の前を通りかかると、懐かしい顔にばったり出会った。

「こんなところで何しているんだよ」

河西が声を掛けたのは、慶応義塾高時代の同級生、後藤田紘二だった。彼は約三カ月前から長銀の横浜支店に副支店長として赴任していた。

「お茶でも飲もうか」

二人は高島屋の五階にある特別食堂で約三時間にわたり、昔話に花を咲かせ、近況を報告し合った。「イ、アイ、イ」と長銀との“蜜月と離反”の深い因縁は、こんな偶然の再会から始まった。(本文より)

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そんな偶然の再会を長銀は活かそうとします。


<本文引用>------------

長銀は、長期信用銀行法により、戦後の日本経済の復興に向け、基幹産業への長期資金の供給を目的に五二年に設立されている。日本興業銀行(興銀)、日本債券信用銀行(日債銀)とともに、主に金融債の発行により資金調達を行なってきたが、トップを行く興銀には大きく水をあけられていた。

後藤田は「長銀は債券発行銀行なのに、知名度が低く、なかには「『長野銀行のことか』と言う人までいる」と嘆いたが、河西が店頭公開を目指す「イ、アイ、イ」の代表で、メインバンクを探していると知ると俄然興味を示した。

「ぜひ長銀をメインバンクで使ってくれ」

後藤田は「イ、アイ、イ」の本店が銀座にあったことから、慶応大の後輩で、長銀東京支店の営業第四部長、原惇一をすぐに紹介した。新規開拓を担当する原は、「イ、アイ、イ」に日参するようになり、慶応繋がりの治則とも意気投合。長親と「イ、アイ、イ」との取引が始まっていく。(本文より)

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一方の兄の高橋治之氏はサラリーマンとして、着実に実績を積み上げていきます。

その実績の一つがスポーツビジネス。

そんな高橋治之氏の実力に、五輪招致の目指す、当時の政府が目を付けます。


<本文引用>------------

安倍は治之に「高橋さん、ちょっと」と声を掛け、二人きりで話す場面を作って、こう切り出した。

「本気で五輪の招致をやりたいと思っています。石原さんからも『プロがやらなきゃ勝てない』と言われました。高橋さん、ぜひやって頂けませんか?」

安倍家と高橋家の繋がりについては、すでに詳述したが、治之は治則を通じて晋三の父、晋太郎の時代から安倍家とは付き合いがあった。しかし、治之は躊躇いなくこう答えた。

「五輪のことに関わると、終わってから、『帳面を出せ』とか、必ずいろんな問題が出てきます。事件になることもある。だから、僕は表立ってはやりたくないです」

治之が一六年五輪の招致の際、土壇場で依頼を受けるまで、自分からは一切動かなかったのも、それが理由の一つだった。

すると、安倍はこう断言した。

「大丈夫です。絶対に迷惑が掛からないようにします。それは僕が保証します」

時の首相からお墨付きを得たことで、治之は招致委員会のスペシャルアドバイザーに就任した。治之には、FIFA会長のゼップ・ブラッターと国際陸連会長のラミンという二人の有力IOC委員の人脈を起点とし、組織票を固めていくことが期待されていた。さらに治之は、招致活動をスポンサードする協賛企業の募集にも関わっていく。(本文より)

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バブル崩壊では、多額の借入負債を持った企業がワイドショーで叩かれまくっていました。

金融機関や、そのグループ会社であるノンバンク、住専から多額の借り入れを行っている会社が名指しでTVをにぎわせていました。

そして、TVのワイドショーが得意とするが街頭インタビューで、いわゆる「庶民の声」が流れます。

いわゆる「庶民」が多額の借り入れを行っている企業を批判します。

当時銀行員だった私は、いわゆる「庶民の声」を聞きながら、「この人たち、いったい、何が起きているのかわかっているのかなあ」と思いながらTVを見ていました。


タイトルでは「五輪を喰った兄」、「長銀を潰した弟」となっています。

しかし、読後、「本当に五輪を喰ったのは誰?」、「本当に長銀を潰したのは誰?」、そんな風に思ってしまいました。


著者もそのあたりは実に丁寧に書いていて、読み応えがありました。



◆頭の中でシンクロした他の完読作品

『バブル兄弟 ‶五輪を喰った兄〟高橋治之と〝長銀を潰した弟〟高橋治則』


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■読んだきっかけ:文化放送『おはよう寺ちゃん』2025.2.5の放送回。

■読んで知ったこと:サラリーマンになりながらその枠にとらわれないサラリーマンとは。

■今度読みたくなった作品:『中森明菜消えた歌姫』西崎伸彦

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バブル兄弟〝五輪を喰った兄〟高橋治之と〝長銀を潰した弟〟高橋治則 (文春e-book) - 西﨑 伸彦
バブル兄弟〝五輪を喰った兄〟高橋治之と〝長銀を潰した弟〟高橋治則 (文春e-book) - 西﨑 伸彦









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