「一流のヨーロッパ」と「二流のヨーロッパ」。
2025年2月に行われたドイツ総選挙。
選挙結果が注目されたことの一つが、移民政策に否定的な極右政党といわれるドイツのための選択肢(AfD)の躍進。
興味深いのが、ドイツのための選択肢(AfD)が勝利した地域。
思いっきり、旧東ドイツの地域でした。
1990年10月、ドイツ民主共和国(東ドイツ)がドイツ連邦共和国(西ドイツ)に編入される形で再統一が実現したドイツ。
統一から35年。
今回の選挙結果を見すと、まだまだ、国民感情の統合はできていないように思えてしまいます。
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書名:『ポスト・ヨーロッパ: 共産主義後をどう生き抜くか』
著者:スラヴェンカ・ドラクリッチ(著)、栃井裕美(訳)
出版:人文書院(2023.02)
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著者はクロアチア出身のジャーナリスト、作家。
EUが行った移民難民への融和政策が旧東ヨーロッパの人たちに何をもたらしたのかを解説しています。
翻訳ものです。
原題は『CAFÉ EUROPA REVISITED: HOW TO SURVIVE POST-COMMUNISM』です。
直訳すると『カフェ・ヨーロッパ再訪 ポスト共産主義時代を生き抜く方法』といったところでしょうか。
タイトルからして、『カフェ・ヨーロッパ』 http://myreadingnotebook.seesaa.net/article/●●●●●●●●●.html の流れを汲んでいることがわかりますね。
ソ連崩壊後、「西ヨーロッパ」と「東ヨーロッパ」が無くなり、「ヨーロッパ」になった一方で、内部に「格差」を内包することになったヨーロッパ。
これが表面化したタイミングはいつか?
<本文引用>------------
バラ色の欧州統合像に最初の亀裂が生じたのは、おそらく二〇〇八年の金融危機のとき。二○一五年にはデンマーク、オランダ、イタリア、フィンランドの選挙で右翼政党が登場した。するとどうだろう。突然民族のアイデンティティとその喪失という「ほとんど」忘れ去られていたテーマについて、公の場で多くの議論が交わされるようになった。グローバリゼーションと金融危機が相まって、ヨーロッパ全土に不安が生じたとすぐさま明らかになった。しかし、 この三○年間における決定的な出来事はヨーロッパの外部からやって来ていた。またそれに対する反応や、その後の政治的変化という観点から言えば、ヨーロッパをさらに深く分断させるものだった。つまり二〇一五年から二○一六年にかけてヨーロッパ大陸を襲った突発的な難民の大波、いわゆるヨーロッパの難民危機である。(本文より)
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著者はその重要なポイントとして
1.2008年の金融危機
2.2015年の難民流入
を上げ下ます。
<本文引用>------------
共産主義以降の新たな現実のなかで、喜びはすぐに貧困の拡大、国有財産の民営化で財を成した人と極貧層との格差、汚職、政界のエリートや不透明なEUの官僚主義に対する不信などに端を発した猜疑心に取って代わった。もちろん良い変化も多かった。なかでも西側のようにあらゆる種類の新製品を手に入れる機会だけは何の異論もなく受け入れられた。安定性は商品、ビジネス、人々の流動性に置き換えられた。しかし、移動の自由があっても金がなければ無意味だ。「ヨーロッパ」は私たちの空想に応えてはくれなかった。そのような夢物語は決して現実になり得ないからだ。それどころか、ヨーロッパこそ経済的不正義、雇用問題や民主政の減退を招いただけでなく、単純に私たち東欧諸国に十分な資金を送ってくれないという理由で新植民地主義の拡大だと非難されたのである。
その間にも私たちは、自分たちが同種類のヨーロッパ人ではないと、ある者はよりヨーロッパ人らしいということを思い知った。周縁部に住んでいたり別の時代からやって来ているだけなのに、東欧の人間は二流のヨーロッパ人となってしまうのだ。スーパーマーケットの洗剤や缶詰さながら、ブランド名は同じでも東欧と西欧では品質が異なる。まるで頬に平手打ちをくらったかのようだとでも表現するとうまい喩えになろうか。しかし、こんなにはっきりとした不平等があっていいのだろうか。
おまけに西側から東欧を見てみると、汚職の蔓延という別の点で不平等が見えてくる。(本文より)
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同じ商品やブランドであっても、成分や性能、機能がことなる商品が送られてくる東ヨーロッパ。
<本文引用>------------
ポーランドにおいてはライプニッツ社のビスケットにはバターが五%、パーム油が一部含まれているが、一方同社の本拠地であるドイツで販売されている同じ商品はバターが一二%で、バターの代用品である安価なパーム油は含まれていない。スロヴェニアの消費者団体が同国とオーストリアで販売されている三三種の製品を調査し、品質に差がある一○製品を特定した。要するに粗悪品は西欧諸国ではなく、いつも東欧諸国で並べられていたのである。(本文より)
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「一流のヨーロッパ」と「二流のヨーロッパ」を生み出したんですね。
「自分たちは二流のヨーロッパ人として扱われている」
そんな不満が鬱積する中、「一流のヨーロッパ」が自分たちの“二流状態”を顧みることなく行い始めた、数々の難民への寛容政策。
そんな時期に難民が引き起こす数々の事件を見せられた「二流のヨーロッパ」に住む人はどう思うのか。
<本文引用>------------
続いて二〇一五年の大晦日、ケルンをはじめとするドイツの各都市でイスラム系移民のバックグウンドを持つ男性によるレイブやセクシャルハラスメント事件が多発した。一連の事件は当初地元の住人による報復の懸念から、地元警察によって隠蔽されていた。だがメディアの民やイスラム教徒は潜在的なレイプ犯となってしまった。まさにドイツや周辺諸国の世論が動いた瞬間だった。メルケルの国境解放政策から、西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者やドイツのための選択(ドイツ語の頭文字をとってAfDと呼ばれている)などの極右グループへと世論が転換し始めたのである。これらは当時は小さいながらも急成長と遂げていた運動だったが、やがて反移民を掲げる政党となった。
パリ、ニース、ブリュッセルで犠牲者を出したテロ事件も、難民やフランスとベルギーの市民によるものではなかったが(ただし、犯人グループは移民の子孫だった)流れを変える一因となった。オルバーンが宣言したように、一連の暴行はヨーロッパが包囲されている「証拠」となったのである。しかしEUにたどり着いた二三〇万人の難民のうち、一体どれだけの人が真の脅威となり得るのだろうか。 (本文より)
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当然と言えば、当然の結果に見えます。
以前読んだ『繁栄西ドイツが落ちた罠: 日本は本当に大丈夫か』 http://myreadingnotebook.seesaa.net/article/514889691.html でもわかるように、かつての「西ドイツ」で起きていた状況。
長い平和と安定は、ドイツの人たちから、それを忘れさせてしまったんでしょうかね。
<本文引用>------------
多くの人々のように、メルケル自身も難民の惨状に圧倒されたに違いない。根底には困っている難民を脅威としてではなく、人間として扱うべきだというモラルがある。だが、あまりにも多くの難民が一度に流入してきてしまった。メルケルの過ちは難民を登録手続きなしに、実質的に何のコントロールもせずに受け入れてしまった点にある。EU国境での登録は多くの人員と資金、また迅速で効率的な組織を必要とするためほぼ不可能に近かったと誰かが擁護すべきだった。だが口を開く者はいなかった。すぐに規制が敷かれて加盟国は国境を大幅に封鎖し、以前は批判対象としていたオルバーンに倣って独自の鉄条網を設置する国も出た。ヨーロッパの文化を守る、というオルバーンの言葉が繰り返されたのだった。
難民を未来の労働力として受け入れるという判断は合理的であるとしても、メルケルに思いやりがなかったわけでも、感情だけで行動したわけでもなかった。メルケルはマザー・テレサとしての役割、つまり難民の母親としての役割を一年余り続けた。だが思いやりのあるリーダーとしてのイメージはそれほど長く続かず、政策の転換を余儀なくされた。特に東ドイツの人々はメルケルに対して怒りを感じていた。本質的に自分たちの仲間でありながら、同胞をほとんど気にかけなかったからである。それどころか彼女は外国人を助けるために奔走していたのだ。二〇一七年の総選挙で極右のAfDが一二・六%の得票率を獲得し、その支持のほとんどが東ドイツからであったという事実からも、当地におけるメルケルの支持率の低下は明らかであろう。 (本文より)
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本作が発表されたのは2023年。
著者の指摘はまずます現実性を高めています。
◆頭の中でシンクロした他の完読作品
『ポスト・ヨーロッパ: 共産主義後をどう生き抜くか』
『カフェ・ヨーロッパ』
『繁栄西ドイツが落ちた罠: 日本は本当に大丈夫か』
『移民 難民 ドイツ・ヨーロッパの現実』
『最底辺 Ganz unten ―トルコ人に変身して見た祖国・西ドイツ』
『難民問題 -イスラム圏の動揺、EUの苦悩、日本の課題』
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■読んだきっかけ:『カフェ・ヨーロッパ』 スラヴェンカ・ドラクリッチ
■読んで知ったこと:「一流のヨーロッパ」と「二流のヨーロッパ」。
■今度読みたくなった作品:『アフター・ヨーロッパ――ポピュリズムという妖怪にどう向きあうか』イワン・クラステフ他
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