中国をビルマに次いで承認し、最初に大使館を設置した国、インド。
私は東京メトロの東西線沿線に住んでいます。
東西線の駅の一つ、西葛西。
実はここ、インド人の方が多く住む「リトル・インディア」とも呼ばれているそうです。
なぜ、そんな風になったのかというと、立地面や、一人のインド人の存在があるそうです。
このインド人はビジネスで成功した後、来日した同胞のため、無償で衣食住のサポートを行ってきたんだそうです。
――――――――――――
書名:『インドの正体-「未来の大国」の虚と実』
著者:伊藤融(著)
出版:中央公論新社(2023.04)
――――――――――――
著者は防衛大学校人文社会科学群国際関係学科教授。
経済発展著しいインドとの正しい付き合い方について解説しています。
対中国を考えるうえで日本にとって重要な存在となるのがインド。
日本にはインドに親近感を持つ人が多いように思います。
保守系論客で「インド!良い国!」と主張するときによく取り上げるのが、チャンドラ・ボース氏やパール氏の存在です。
<本文引用>------------
非政治的なイメージへの憧憬だけではない。リベラル勢力は独立の父マハトマ・ガンディーの非暴力主義や、初代首相ネルーの非同盟を模範と仰ぐ一方、右派は戦時期に日本軍と手を携えて反英・独立闘争を戦ったチャンドラ・ボース、東京裁判で日本人戦犯無罪を主張したパール判事を礼賛してきた。そして台頭する中国への脅威が語られる今日、もうひとつの新興大国への期待が高まっている。折しもインドは、2023年には、中国を抜いて1億人超の人口世界一となることが見込まれ、世界主要20カ国・地域(G20)議長国として各国の首脳を迎える。(本文より)
------------------------
ロシアによるウクライナ侵略に対し、G7はロシアへの経済制裁を主導します。
しかし、インドは、これにすんなりとは同調しません。
これについて、著者は冷静に、分析、解説します。
<本文引用>------------
ただ誤解のないようにしておきたいのは、インドがロシアのウクライナ侵攻を「支持」したわけではない、ということだ。インドは安保理であれ、総会であれ、ロシア非決議案に「反対」したのではなく、あくまでも「棄権」したにすぎない。その点では北朝鮮やシリア、ベラルーシなどのような、ロシアと完全に行動を共にした国とは異なる。
さらに注目すべきは、棄権票を投じる際の「投票説明」だ。インドのティルムルティ国連大使は、今回の事態に「非常に困惑」し、ウクライナに残る多くのインド人留学生安全を懸念しているなどと述べ、ロシアへの不快感を隠さなかった。実際、インド外務省は、ウクライナ在住の2万人ものインド人に対し、開戦するまで退避勧告を出していなかったのだ。大使の発言には、侵攻を考えていないというロシア側のそれまでの説明を信じていたのに、裏切られたという憤りが込められている。
そればかりか、大使は、ロシアを名指しこそしなかったが、国際法や各国の主権と領土一体性は尊重されるべきであると明言している。これは実質的には、力による現状変更を試みたロシアの「行動」を批判したに等しい。さらに、外交の道が放棄されたことは遺憾だとして、外交と対話による平和的解決に戻るよう求めた。(本文より)
------------------------
国際政治学って、こういうきめ細かい発言にも注意を払うんですね。
さらに、過去の発言とも比較します。
<本文引用>------------
過去を振り返ってみると、インドは1979年からのソ連のアフガニスタン侵攻の際には、国連総会でソ連の立場を擁護する演説を行った。2014年のロシアによるクリミア併合の際には一切のコメントを控えた。棄権票という投票行動だけをみれば同じだが、冷戦期からの友好国ロシアに対して、インドがここまで厳しい注文を付けたのは異例なのだ。
それはインドにとって、ロシアがいまや唯一の選択肢ではなくなったことが背景にある。かつてのインドは、当時のソ連くらいしか味方になってくれる大国はなかった。ところが、いまでは日本やアメリカなど西側諸国も、インドとの関係を重視し、こぞって接近してくる。インドからすれば、「よりどりみどり」の状態だ。冷戦期のつながりから、兵器などではまだロシアに依存する部分が多いとはいっても、新しいものは西側の兵器も増えている。インドとしては、ロシアに文句が言いやすくなったのだ。(本文より)
------------------------
「インドはロシアから大量に武器を買っているから意見を言えない」
なんて、一部のジャーナリストやコメンテーターの発言がいかに浅いかがわかります。
今だからこそ、中国とインドは対立しているイメージがあります。
しかし、1949年に中華人民共和国が建国されたときは、どうもそうではなかったようです。
インドはビルマに次いで中華人民共和国を国家承認し、最初に大使館を設置した国となったそうです。
そんなインドに対し、中華人民共和国は何をしたのか?
<本文引用>------------
ところが実際には、中国側はその裏で、インドが領有権を主張するカシミール地方の北東部、アクサイチンに一方的な道路建設を着々と進めていた。ここは、無人の荒地であったこともあり、無警戒だったインドはまったく気づかないまま、道路の完成を許してしまう。その後、チベット反乱、ダライ・ラマのインド亡命に中国が反発して、両国関係は悪化へ向かう。他の国境係争地でも小規模な衝突が相次ぐなか、ついに1962年、中国人民解放軍がインドへの軍事作戦を開始したのだ。世界の耳目が、キューバ危機に集まるさなかの襲撃であった。まさか中国の侵攻はないと楽観していたインド側は、なすすべもなく敗走を重ねた。インド軍・安全保障関係者のあいだには、60年を経た今日でも、この国境戦争での敗北の記憶が大きなトラウマとして根強く残る。(本文より)
------------------------
じゃあ、インドは中華人民共和国とを手を切れるのかというと、どうもそうではないようです。
<本文引用>------------
ところが、脱中国化はそう簡単な話ではなかった。2021年4月、インドを新型コロナの感染「第2波」が襲ったとき、医療崩壊に陥ったインドは、香港経由で中国製の人工呼吸器や酸素濃縮器に依存せざるをえなかった。電化製品のインド国内での製造にも、中国の半導体や集積回路、リチウム電池等が欠かせないという実態が露呈する。結局、皮肉なことに、同年の対中貿易(輸入)額は、過去最高を記録した。厳しい現実のなか、モディ政権は「自立したインド」というスローガンを掲げ、クアッドとも連携しつつ、中国に依存しないサプライチェーンの再構築に乗り出した。(本文より)
------------------------
ただ、これも一朝一夕にはいかないようです。
なぜなら、半導体をはじめとする最先端の工業製品を製造するためには「良質な水」と「良質な電気」が必要だそうです。
「良質な水」と「良質な電気」。
この2つが決定的に不足しているのがインドの実情なんだそうです。
「自由で開かれたインド太平洋」。
太平洋とインド洋を力や威圧と無縁で、自由と法が支配する、市場経済を重んじる海とすることで、成長著しいアジアと潜在力あふれるアフリカの結びつきを強め、この地域の安定と繁栄を促進しようという構想です。
安全保障を考える上では、各国の事情の違いを抑える必要があります。
<本文引用>------------
しかしながら、インドと日本やアメリカなどのあいだで、対中認識が完全に一致しているというわけではない。安全保障上は、「脅威」という漠然としたイメージで一致するのは間違いない。けれども、その脅威を具体的に感じる現場は同じではない。日本やアメリカが警戒するのは、なんといっても中国の海洋進出だろう。尖閣諸島を中心に東シナ海、台湾海峡、南シナ海、さらにはインド洋のシーレーンなどで、武力による威嚇、一方的な現状変更の試み、航行・通商の自由の妨害が頻発している。日米豪が「自由で開かれたインド太平洋」を掲げて、インドにクアッドへの参画を求めたのは、そうした環境変化に対する危機感からだった。(本文より)
------------------------
しかし、インドが考えなければならないのは「海」だけではありません。
<本文引用>------------
もちろん、インドにも同じ懸念はあった。しかし、その懸念は海洋だけにあるのではない。インドは、たしかに故安倍元首相が述べたように、インド洋に面する海洋国家だ。しかしそれはインドの南半分から眺めたときの話である。この国は、ユーラシア大陸の一部でもあり、北半分に目を向ければ大陸国家という面も有する。(本文より)
------------------------
海洋国家でもあり、大陸国家でもある。
それがインドなんですね。
<本文引用>------------
そうなると、まず着手しなければならないのは、相手側がなにを望んでいるのかを正確に把握することだろう。この点で間違いなくいえるのは、安全保障面でアメリカが日本に対して果たしているような役割は、日本に対しても、アメリカに対しても、インドが期待しているわけではない、ということだ。(本文より)
------------------------
本作を手に取ったきっかけは著者が出演した「BSフジプライムニュース(2024.07.31)」。
私が追っかけしている鈴木一人氏、小泉悠氏と一緒に出演し、わかりやすくも、「えーそうなの?」という話を沢山してくれました。
本作、現代インドを知りたくなるきっかけになりました。
◆頭の中でシンクロした他の完読作品
『武器化する経済 アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか』
――――――――――――
■読んだきっかけ:BSフジプライムニュース(2024.07.31)
■読んで知ったこと:中国をビルマに次いで承認し、最初に大使館を設置した国、インド。
■今度読みたくなった作品:『新興大国インドの行動原理:独自リアリズム外交のゆくえ』伊藤融
――――――――――――

インドの正体-「未来の大国」の虚と実 (中公新書ラクレ 793) - 伊藤 融






この記事へのコメント