実は人々の日常生活も明らかにしている中国の古典の数々。
私が好きな古代中国の古典『韓非子』。
「道徳」ではなく、「法」という強い統制力を使って国の安定と発展を求める法家思想の原典です。
内容には「鰻は蛇に似ているし、蚕は芋虫に似ている。人は蛇を見れば驚くし、芋虫を見れば身の毛がよだつ。しかし漁師は鰻を素手で握り、婦人は蚕を素手でつまむ。利益があるとなれば、皆、孟賁や専諸のような勇者となるのだ。」なんてものがあります。
鰻は素手で握り、蚕は素手でつまむ。
なんか、紀元前の古代中国の人たちの生活ぶりが見えてくるような描画ですね。
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書名:『古代中国の24時間-秦漢時代の衣食住から性愛まで』
著者: 柿沼陽平(著)
出版:中央公論新社(2021.11)
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著者は中国古代史経済史を専門とする早稲田大学文学学術院教長江流域文化研究所所長。
中国の古典の記述を使って、古代中国の生活を明らかにします。
古代中国。
サブタイトルから見ると「秦漢時代」を指していると思われます。
「秦」が中国を統一し、史上初の皇帝となった始皇帝が中央集権・法治主義の国づくりを進めたのが紀元前221年。
その秦が倒れて、劉邦によって建てられたのが「漢(前漢)」。
その後、紀元後25年に「漢(後漢)」が建ち、その「漢(後漢)」は220年に魏に滅ぼされました。
ですから、本作のいう「古代中国」は紀元前200年頃から220年の間の約400年を指していると思われます。
でも、そもそも、そんな昔の日常生活を明らかにすることは可能なのか?
著者は十分可能であるとしています。
それはなぜか?
<本文引用>------------
しかし幸か不幸か、中国古代史の史料はそれほど多くなく、主要なものはせいぜい一五〇○万字程度である。それは本書一〇〇冊ぶんくらいの漢文であり、逐字的な精読はムリにしでも、まともな研究者なら一〇年間もかければ読みとおせる量である。そこに描かれている日常生活に焦点をしぼるかぎり、議論が際限なく拡散してゆく恐れは減らせよう。そしてどこかでふんぎりをつけ、民の日常生活を大まかにまとめて説明することは、歴史学の研究として許容されるべきことではあるまいか。(本文より)
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本作の最後にはこんな記載があります。
<本文引用>------------
注記
プロローグ
1 『漢書』巻四四淮安王劉安伝。
2 『漢書』巻二三刑法志。
(本文より)
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「この箇所は○○の古典から引用しましたよ」って感じで、しっかり、引用を記してくれています。
<本文引用>------------
当時人びとが暮らしていた住居は、行政管理上いずれかの里に属していた。里には土壁に囲まれたものとそうでないものがある。大きな城(後述する郡城や県城)のなかにはいくつもの里がふくまれ、それらは整然とならび、たがいに隣接しており、里と里のあいだには土壁(院)がある。(注25)それらの土壁や役所の壁(墻垣)は官吏が管理すべきもので、建造後一年以内に壊れたら担当官吏は処罰された。(注26)里には門があり、監門とよばれる門番がおり、希望者はその職務を担うことができ、そのかわりに最低限の食事にありつけた。(注27)業務内容はシンプルで、身体障害者がその仕事を担うことが多かった。(注28)(本文より)
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「業務内容はシンプルで、身体障害者がその仕事を担うことが多かった。(注28)」
引用にはこんな風に書かれていました。
<本文引用>------------
序章
28 『韓非子 』外儲説左下。
(本文より)
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そこで、手元にある『韓非子』で該当箇所を見るとこんな風に書かれていました。
<本文引用>------------
外儲説左下 第三十三
七
・・・孔子が衛の宰相であったとき、弟子の子皐が裁判官となって、ある人を足斬りの刑に処した。足斬りにあったその人は都の門番になっていた。・・・(本文より)
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ここから「身体障害者がその仕事を担うことが多かった。」を導いているんですね。
<本文引用>------------
切実な口臭
問題もちろん、ろくに歯もみがかずに日々を過ごしている以上、口臭もちの人もいる。口臭がひどければ、男女ともによりつかず、恋愛・結婚・仕事にも支障が出るであろう。それゆえじっさいに戦国秦の「日書」(注32)という占いの書物には、しばしば口臭問題が取沙汰されている。「○○日に生まれた子どもはきっと口が臭いであろう」、「○○日に結婚した場合、妻はきっと口が臭いであろう」等々。これらはおそらく出産間近の父母、もしくは結婚間近の男性にたいする占いであり、口臭が切実な問題であったことをうかがわせる。
かりに皇帝の側近ともなれば、皇帝がそれを不快に思わぬように、いわゆるブレスケア(杜若(とじゃく)・鶏舌香(けいぜつこう))を服用しておくほうがよい。(注33)とくに鶏舌香は、かの曹操が天才軍師諸葛亮孔明に贈ったこともある珍品で、「孔明よ、おれのそばでささやいておくれ(アヤシイ意味ではなく、助言を求めている)」という意味の贈り物であろう。(注34)
ただし、カンタンに手に入るものではなかったらしい。たとえば、ある老臣は皇帝から鶏舌香を渡され、口にふくんだところ、たいへんな苦さであった。かれは皇帝から毒薬を賜ったものと誤解し、帰宅後に家族に説明したところ、皇帝の面前でいったいどんなミスを犯したのかとみな大騒ぎした。その後、かれの口からよい匂いがしたので、みな大笑いとなり、その老臣もようやく事態が飲み込めたという。(注35)つまりその老臣は、口が臭かったので、皇帝から鶏舌香を賜わったわけである。どうやらその老臣にとって、その服用ははじめての体験であったようである。(本文より)
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「かりに皇帝の側近ともなれば、皇帝がそれを不快に思わぬように、いわゆるブレスケア(杜若(とじゃく)・鶏舌香(けいぜつこう))を服用しておくほうがよい。(注33)」
引用にはこんな風に書かれていました。
<本文引用>------------
第2章
33 『韓非子 』内儲説下。『太平御覧』巻一八五居処部十三屏条引『漢官典職』。
(本文より)
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また、手元にある『韓非子』で該当箇所を見るとこんな風に書かれていました。
<本文引用>------------
内儲説下 六微 第三十一
四
・・・楚の鄭袖は鼻をおおわせてそれを王の臭いが嫌いだからだと言いつけたので、それで新しい美人をそがれ・・・
(本文より)
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ここから「匂いに注意」を導き出しているんですね。
こうした引用を積み上げていくことで、古代中国の生活を見事に甦らせています。
◆頭の中でシンクロした他の完読作品
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■読んだきっかけ:図書館
■読んで知ったこと:実は人々の日常生活も明らかにしている中国の古典の数々。
■今度読みたくなった作品:『劉備と諸葛亮 カネ勘定の『三国志』』柿沼陽平







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