『武器化する経済 アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか』

アメリカが持つ金融情報パワー、クラウド情報パワー、知財制裁パワー。


「経済制裁」。

2022年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵略。

G7は結束してロシアに対し、「経済制裁」を実施。

実施した内容を報じるニュースを見て、銀行員時代に外為研修で習った用語を見つけました。

それが「SWIFT」です。


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書名:『武器化する経済 アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか』

著者:ヘンリー・ファレル(著)、アブラハム・ニューマン(著)、野中香方子(訳)、鈴木一人(解説)

出版:日経BP(2024.03)

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著者はSNFアゴラ教授(ヘンリー氏)とジョージタウン大学外交政策大学院・政治学部教授(アブラハム氏)。

本作は現代に続く「経済の武器化」がどこから始まったのかを解説します。


翻訳ものです。

原題は『Underground Empire:How America Weaponized the World Economy』。

直訳すると『地下帝国:アメリカはいかにして世界経済を兵器化したのか』といった感じです。



私は新卒で選んだ会社は都市銀行の一つ。

ですから「SWIFT」という言葉は結構身近でした。


「SWIFT」。

このキーワード、G7を主体とする自由主義諸国がロシアに対して行った経済制裁で、一気に有名になりました。


ただ、この「SWIFT」が経済制裁の武器の一つになるのは、なんか、偶然の産物のようです。

きっかけはアメリカの巨大銀行の一行「シティバンク」でした。


<本文引用>------------

リストンが、ナショナル・シティ・バンク(現シティバンク)の新米銀行員だった頃、陸路だけでなく海路でも安く物資を輸送するアイデアを持っていたトラック運送起業家のマルコム・マクレーンに4200万ドルを融資し、上司を卒倒させかけた。マクレーンはその資金を元手にコンテナ輸送革命を起こし、世界各地への物流コストを劇的に下げた。また、リストンの金融革命は、現在のユーロダラー市場の創設を後押しした[ユーロダラーとは、米国以外の銀行に預けられたこと]。それは米国外で米ドル建ての金融取引を行う巨大なオフショア市場である。さらに、1970年代初め、リストンはシティバンクが主導するグローバル決済システムを構築しようとした。それに刺激されて、他行も独自のシステムを構築し始めた。なぜなら、国際金融においてシティバンクに飲み込まれたくなかったからだ。(本文より)

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一社が何かしようとする。

別の会社には、その会社と組むか?

はたまた、別の動きをする?


どうも、他の銀行さんはシティバンクに追随するのを良しとしなかったようです。


<本文引用>------------

問題は、シティバンクが巨大すぎて信用できないことだった。シティバンクは、他のすべての銀行が依存している送金メッセージ・システムを支配したかったかもしれないが、他の銀行にはそれを警戒する十分な理由があった。自分たちは一切コントロールできず、しかもシティバンクが自分たちを締めつけるために意のままに変更できるテクノロジーを使う気にはなれなかったのだ。ポロは続けてこう言った。「選択肢は、シティバンクの人質になるか、ノーと言うかのどちらかだった。正気なら、誰も人質になろうとはしないだろう」。結局、多くの銀行が要請を拒否したため、大量の送金不能が発生し、シティバンクのコルレス銀行ネットワークは崩壊しそうになった。それに対処するため、シティバンクの後方業務は大混乱に陥った。(本文より)

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実はシティバンクのシステム以外にもネットワークはあったようです。


<本文引用>------------

当時、シティバンクのMARTIが唯一の送金メッセージ・システムだったわけではない。オランダの銀行家ヨハネス(ヤン)・クラーは1973年に欧州の銀行グループに呼びかけて、「国際銀行間通信協会(SWIFT)」を設立した。SWIFTも銀行間の安全な通信を支えるための技術で、二大金融センターであるロンドンとニューヨークの対立を避けるためベルギーに本拠を置いた。しかし、欧州の銀行をSWIFTに参加させるのは容易ではなかった。銀行それぞれ自国の基準を優先させたいと考えていたため、コンセンサスを得ることも、システムを機能させるのに十分な数の銀行を集めることもできず、失敗に終わる可能性が高まっていた。しかし1974年、シティバンクからMARTIを強制されたことで、欧州の自分たちが共通基準を打ち出さなければ、シティバンクのようなよそ者が基準をつくり、押しつけてくると考えた。

シティバンクがコルレス銀行にMARTIを強制しようとした結果、SWIFTの「地滑り的採用」が決定的になった。1975年末までに15カ国270行の銀行がSWIFTに加盟した。リストンは、MARTIが失敗したのは、銀行間の合意を得るのは難しいからだと説明したが、マッテイスは後に「MARTIに対する人々の抵抗が、SWIFTを成功に導いた」と認めた。

やがてSWIFTへの加盟は、グローバル金融システムに参加するための必須条件になった。そしてSWIFTは、成長すればするほど、米国を含むグローバル金融システムにとって不可欠な存在になっていった。設立から11年後、ケミカル・バンクのロバート・ムーアが米国人初SWIFT会長になり、2006年にはシティバンクのヤワル・シャーがSWIFTの会長に就任した。現在、SWIFTは年間100億件超のメッセージを運び、1250兆ドルの取引を可能にしている。ドル決済システムと同様に、SWIFTはグローバル金融の中心的な役割を果たしている。SWIFTの公式な歴史の執筆者が認めるように、「金融サービスに参加したければ、他に現実的な選択肢はないため・・・・・・SWIFTは『義務的な経由地』になった」。(本文より)

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本作では、最近、熊本県に進出したTSMCにも触れています。


<本文引用>------------

また、TSMCは顧客を公平に扱うことを重んじた。内部資料には、ある顧客に「一度限りの」特別なサービスを提供した場合、その顧客の競合相手にも「同様のサービス」を提供し、前者だけを優遇している印象を与えないようにすることが義務づけられていた。実際、TSMCは、エヌビディアとクアルコムのようなライバル関係にある企業を公平に扱い、ウォール・ストリート・ジャーナルに「半導体のスイス」と評された。(本文より)

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へー、TSMCって、自由貿易の中でビジネスを大きくするためには、こうしたスタンスを選んだんですね。


<本文引用>------------

しかし、地政学的な緊張が高まるにつれて、TSMCの立場は厳しくなっていった。中華人民共和国は台湾を自国の一部と見なしており、穏やかな説得と容赦ない力の組み合わせによって、母国への再統一に動いている。TSMCは、互いに競合する複数のハイテク企業と関わりながら、どこにも肩入れせず、ハイテク分野のスイスを演じてきたが、米国と中国が互いを響戒するようになると、「反目する両巨人のどちらとも、時々友人になるフィンランド」の役割も果たすようになった[第二次世界大戦後の冷戦時代に、フィンランドはソビエト連邦とでバランスを取りながら自国の主権と中立性を維持した]。(本文より)

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ただ、経済安全保障が叫ばれる昨今、TSMCの立場も変化しているようですね。


巻末には、鈴木一人氏(東京大学公共政策大学院教授)が「日本語解説」として、「「武器化した経済」での戦いの勝者は誰か?」を寄稿しています。

この中で初めて目にするキーワードがありました。

それが「地経学」です。


クラウド・コンピューティングのインフラでの強みを持つアメリカ。


<本文引用>------------

また、物理的なネットワークとしての通信インフラに関しても、米国の支配が及んでいる。その象徴がクラウド・コンピューティングである。膨大な量のデータがクラウド上に保管され、世界中どこにいてもネットにつながりさえすれば、パソコンでもスマートフォンでも同じデータを引き出すことができる。これらのデータは世界各地に分散されているが、そうしたクラウドサービスを提供しているのはアマゾンやマイクロソフトという米国の企業である。クラウドといってもデータはどこかに格納されている。その中心地がバージニア州であることが米国の「クラウド情報パワー」となっている。(本文より)

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半導体はTSMCだけで作ることはできないようです。


<本文引用>------------

さらに、こうしたクラウドを動かすための半導体の製造に関しても米国は他にはない力を持っている。確かに半導体、とりわけ先端半導体の製造では、台湾のTSMCが圧倒的なグローバル市場でのシェアを握っているが、半導体の設計や製造に必要な技術は米国企業が保有し、知的財産として登録している。これらの知財を使った製品に関しては、米国の「再輸出規制」対象となる。この規制は、製品を製造するのに一定の割合以上の米国製品や米国の技術を使う場合に自動的に適用され、従わない場合は米国が罰することができる。

この「再輸出規制」は、いわゆる国内法の域外適用の代表的な例である。通常、国内法は他国の管轄権にある企業や個人には適用されないが、米国は、他国の管轄であっても自国の法を適用する仕組みを持っている。それは、米国が世界において圧倒的に大きな市場を持っており、もし米国の規制に従わなければ、米国内でのビジネスができなくなる、という仕組みだ。このように、半導体をつくる力がなくても知的財産を持っていることで、制裁を加えると脅すことができる「知財制裁パワー」を有している。(本文より)

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アメリカの持つ地経学的パワーとは何か?


<本文引用>------------

本書で述べられている「地下帝国」は、結局のところ、「金融情報パワー」と「クラウド情報パワー」、そして「知財制裁パワー」の三つに基礎づけられていると言ってよいだろう。これらのパワーは、恐らくドルが基軸通貨である限り、またクラウドサービスが米国企業に独占されている限り、そして米国が知財を生み出し続ける限りくだろう。しかし、これらのパワーによって、米国の国際秩序に対する影響力は永続的なものになるのだろうか。(本文より)

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こうした地経学的パワーを持ったアメリカはどんな政策をとるのか?


<本文引用>------------

しかし、その米国は、「アメリカ・ファースト」を唱えたトランプ前大統領、そしてその経済通商政策の多くを継承したバイデン政権においても、同盟国と協調して行動するといったことを避け、国内の雇用対策や中国の排除を一方的に実施するという状況が続いている。(本文より)

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地経学的パワーを持つアメリカとどう向き合っていくべきか?

そんなことを考えるきっかけになる一冊でした。



◆頭の中でシンクロした他の完読作品

『武器化する経済 アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか』

『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』 

『図解入門よくわかる最新半導体の基本と仕組み』 


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■読んだきっかけ:鈴木一人氏(@KS_1013)のX(旧ツイッター)

■読んで知ったこと:アメリカが持つ金融情報パワー、クラウド情報パワー、知財制裁パワー。

■今度読みたくなった作品:『スパイと嘘』アレックス・ジョスキ

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武器化する経済 アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか - ヘンリー・ファレル, アブラハム・ニューマン, 野中 香方子, 鈴木 一人
武器化する経済 アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか - ヘンリー・ファレル, アブラハム・ニューマン, 野中 香方子, 鈴木 一人











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