『未承認国家と覇権なき世界』

“民族自決”と“未承認国家”。

ロシアによるウクライナ侵略。
始めはウクライナ東部、ドンバス地方での「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立宣言。
もちろん、ウクライナは承認しません。
これをロシアは国家として承認し、すばやく両国と安全保障の協定を締結します。
そして、ロシアはこの2国の安全を確保するため、“戦争”ではなく“特別軍事作戦”を行うべく、ウクライナ領土に進行しました。

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書名:『未承認国家と覇権なき世界』
著者:廣瀬陽子
出版:NHK出版(2014.08)
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著者は国際政治、比較政治、旧ソ連(特にコーカサス)地域研究、紛争・平和研究を専門とする慶應義塾大学総合政策学部准教授。
世界に存在する“未承認国家”が今後の国際政治の重要なファクターとなることを提言します。


そもそも、“国家”とは何か?

<本文引用>------------
ここで主権国家の要件を考えてみよう。法学や政治学などの学問領域においては、一九三三年に署名された一六条からなるモンテヴィデオ議定書(国家の権利および義務に関する条約:Convention on Rights and Duties of States)で示された主権国家の資格要件が公に採用されてきたと言ってよい。同議定書に署名したのはアメリカ合衆国と中南米諸国のみであるが、その内容は国際的に共有されてきた。
同議定書にもとづけば、以下の四点が主権国家の要件となる。
第一に、明確な領域である。一定に区画されている領土、領水、領空を所有していることが求められる。
第二に、恒久的住民の存在である。国民、人民が、その領内に恒久的に属していることが求められる。
第三に、政府ないし、主権の存在である。国内の自治を実効性あるものとする、正当な物理的実力が求められる。また、この実力は、対外的・対内的に排他的に、つまり主権的に行使できなければならない。
これら三点の要件の有無を判断するのは、自国ではなく、外国である。逆にいえば、外国にこれら三点の要件の存在を認めさせることができ、外国と外交できる能力があるということが、必要となる。そこで、第四に、外交能力と国家承認が必要となるのである。(本文より)
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領土、人民(国民)、対外的対内的主権、ということなんですね。

ところが、これをややこしくなる原則論が出てきました。
それが“民族自決”という考えから。

<本文引用>------------
民族自決原則とは、ある民族集団が自分たちの意志にもとづいて、その帰属や政治組織、政治的運命を決定し、他民族や他国家の干渉を認めないとする集団的権利であり、自決権とも呼ばれる。(本文より)
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独立をしたい集団はこれを援用します。

<本文引用>------------
そもそも、未承認国家の存在そのものが、法的親国にとっては違法であるが、未承認国家は人民自決原則を援用して、「民族自決」を主張することによって、自身の正統性を確保し、ひいては国家承認を得たうえでの独立を目指している。(本文より)
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“未承認国家”はある意味利用し易い存在でもあります。

<本文引用>------------
たとえば、沿ドニエストルは長年、ロシアの「武器庫」として知られ、世界各地に武器を供給する源の一つとなってきたと言われている。さらにロシアは沿ドニエストル、アブハジア、南オセチアに軍事基地を持っており、それらはロシアの軍事政策で重要な役割を果たしてきた。多くの未承認国家が密輸ルートの中継点や保管庫だと言われるなか、旧ソ連の未承認国家の状況がとくに深刻だと言われ、さらに、麻薬の主要な産地として有名なアフガニスタンなど、中央アジアに近いコーカサスはもっとも悪名高く、国際社会がたびたび警鐘をならしている。麻薬をはじめとした違法な商品の末端価格はきわめて高く、そのような開経済にかかわる未承認国家の人々のみならず、その近隣国、ひいては欧米諸国にいたるまでの闇経済関係者が莫大な富を得ていると考えられる。
こうして、未承認国家は公には認められないヒト、モノ、カネを自由に中継したり、都合が悪くなれば一時的に貯めておく集積所として利用されてきた。それゆえに、筆者は未承認国家の一側面を「ダストボックス」と名づけたのである。(本文より)
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また、未承認国家は外国の軍事力を招きやすい側面もあります。

<本文引用>------------
未承認国家やその周辺に軍事施設を設置するのは容易だ。 なぜなら、未承認国家は承認されておらず、国際社会においてきわめて弱な存在であるがゆえに、外国の基地は未承認国家の安全を確保するための重要な保証人となりえ、また未承認国家の存在意義を高めることができるだけでなく、高いレベルのインフラ整備や雇用の創出などの経済的メリットをももたらしてくれることから、多くの場合、未承認国家は外国の軍事施設を歓迎するからだ。
未承認国家は内戦や戦争をへて生まれており、その多くは停戦状況をずっと維持したままであるため、ちょっとした契機で再び停戦状況に亀裂が生まれ、内戦や戦争が再発してしまう可能性が常につきまとっている。実際、二〇〇八年八月、グルジアと南オセチアの間で緊張が高まり、両国間の内戦が勃発した直後にロシアが介入し、グルジアとロシアの戦争に発展した「グルジア紛争」(前述のように本来は「戦争」)は記憶に新しいだろう(第三章三節参照)。
未承認国家をめぐる停戦は内部要因からも外部要因からも簡単に崩れうる。だからこそ、未承認国家と法的親国の「停戦ライン」では頻繁に小競り合いが生じ、死傷者が出続けているだけでなく、小競り合いが高じて戦争にまで発展することもあるのである。このように、未承認国家の停戦は脆弱であり、だからこそ第三国や国際社会の平和維持軍や軍事施設が設置されることの十分な根拠を持ち合わせているのだ。(本文より)
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本作は2014年に出版。
まさに、「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」ですね。



2021年12月21日、外国籍の市民も日本人と同等の参政権を与えようとする東京都武蔵野市の住民投票条例案は市議会で反対多数で否決されました。
日本の国内のどこかに地域に特定の外国人が住み、そこで、参政権を確保し、その外国人が有利になる地方行政が次々とおこなわれるようになったらどうなるのか。
もともと争いをさけようとする一般市民は引っ越すでしょうね。
それが繰り返され続けると、その地域はどうなるのか?
その地域の外国人住民が“民族自決”を掲げて、独立宣言をしたら、“未承認国家”が誕生します。
もし外国住民の母国は、その地域を一方的に“国家承認”し、安全保障の協定を締結したらどうなるのか?

<本文引用>------------
未承認国家は今後、国際政治において確実にアクターの一つとして存在感を強めていくはずであり、世界を分析するうえでの一つの重要な要素となっていくだろう。
このように国際政治の重要なアクターとなりつつあるにもかかわらず、実態がつかみづらい未承認国家であるが、本書を通じて、未承認国家に対する皆様の理解が少しでも深まれば嬉しい限りである。(本文より)
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“未承認国家”。
正直、10年ほど前なら「そんなの映画の世界だよ」と言えたことが、今回のロシアのウクライナ侵略によって、一層、現実味が増しています。



◆頭の中でシンクロした他の完読作品

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■読んだきっかけ:『新しい地政学』北岡伸一(編)、細谷雄一(編)
■読んで知ったこと:“民族自決”と“未承認国家”。
■今度読みたくなった作品:『コーカサス国際関係の十字路』廣瀬陽子
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