約2500年以上前から存在した大量の偽情報で嘘を信じ込ませる作戦。
2022年2月24日から始まったロシアによるウクライナ侵略。
実際の戦闘と並行して情報戦が展開されているそうです。
ロシアの情報戦の得意技に「偽情報」があるそうです。
そしてこの「偽情報」。
「質より量!」を具現化するかのように、徹底的に大量の「偽情報」を流すそうです。
大量の「偽情報」を流すことで、相手国の間に分断や疑心暗鬼を引き起こそうとするようです。
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書名:『戦国策 中 新釈漢文大系(48)』
著者:林秀一
出版:明治書院(1990.08)
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本作は中国の古典の一つです。
紀元前476年から秦の始皇帝が六国を滅亡させる紀元前222年までの約250年の間に活躍した縦横家の権謀術策を12ヵ国に分けて書いた古典です。
本作はこの『戦国策』の全編を収録した上、中、下の全三巻のうちの中巻です。
故事(こじ)とは大昔にあった物や出来事。
そして、その故事をもとに作られた慣用語句が故事成語。
中学や高校では教育上好ましい「蛍雪の功」や、わかり易い「矛盾」なんての有名です。
本作では「虎」にちなんだ故事成語が登場します。
まずは私が大好きな「人言いて虎を成す」。
本によっては「市に虎あり」なんて呼ばれています。
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魏 三〇三、 龐葱與太子
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魏の臣である龐葱は、魏の太子とともに趙に人質として行くことになります。
誹謗中傷讒言が飛び交う政治の世界、龐葱は魏王にアドバイスを入れます。
<本文引用>------------
(魏の臣の)龐葱は、(魏の)太子とともに、(趙の都の)邯鄲に人質として行くことになった。 龐葱が魏(の恵)王に言った。「いま、一人のものが 『市場に虎が出た』と申しましたら、王さまはお信じになりますか」と。王は言った、「いや」と。「二人のものが 『市場に虎が出た』と申しましたら、王さまはお信じになりますか」と。王は言った、「わたしは、あるいはと、疑うであろう」と。「では三人のものが 『市場に虎が出た』と申しましたら、王さまはお信じになりますか」と。王「信するであろう」と。そこで龐葱が言うには、「そもそも、市場に虎の出ないことは、判り切ったことです。にもかかわらず、三人のものが言いますと、虎が出たことになります。(本文より)
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そこで、龐葱は魏王に告げます
<本文引用>------------
ところで、邯鄲は(魏の都の)大梁を去ること(街の)市場よりはるかに遠く、しかも臣のことをとやかく批判するものは三人どころではありません。なにとぞ、王さまにはこの点をよくよくお察し下さいませ」と。(本文より)
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魏王は龐葱に答えます。
<本文引用>------------
王は言った。「わたしは自分で判断することにしよう」と。(本文より)
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さて、結果どうなったか?
<本文引用>------------
かくて暇乞いをして出かけて行ったが、まだ目的的地に到着しないうちに、讒言が早くも到着した。その後、太子は人質を解かれ(て帰国し)たが、(龐葱は)果たしてお目通りできなかった。(本文より)
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魏王は龐葱に答えたにもかかわらず、讒言を信じたというわけですね。
ロシアによる大量の「偽情報」の話をきいた時、ぱっと頭にこの故事成語が浮かびました。
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楚 一七六、 荆宣王問羣臣
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王は宰相である昭奚恤の強さを不安視したのか、部下に問いかけます。
<本文引用>------------
荆(楚の異称)の宣王が家来たちに尋ねて言った、「北方のでは、昭奚恤(時に楚の宰相)を恐れていると聞き及んだが、果たして事実はどいうか」と。家来たちには答えるものがなかった。(本文より)
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だれも答えない中、江乙が答えます。
<本文引用>------------
すると、江乙が答えて言うには、「虎は、どんな獣でも求めて食らいます。ある時、狐を捕らえました。孤が言うには、『君は、わたしを食べるようなことをしてはいけない。天帝のお指図に逆らうことになるのです。君がわたしをうそつきと思うなら、わたしが、君の先に立って歩いてみましょう。君はわたしの後からついてきて、どんな獣でも、わたしの姿を見て逃げ出さずにおられるかどうか、よく見るがよい』と。虎はそれを聞いて成る程と思いました。そこで、とうとう、狐といっしょに出かけました。獣たちはそれを見かけると、一斉に逃げ出しました。虎は、獣たちが自分を恐れて逃げ出すのだとは気づかず、狐を恐れているのだと思ったのです。いま、王さまの土地は、五千里四方、武装した兵士は百万もあるのに、すべてこれを昭奚恤に任せ切っておられます。だから、北方の諸国が昭奚恤を恐れるのは、その実、王さまの軍兵を恐れているのでありまして、それはちょうど、もろもろの獣たちが虎を恐れたのと同様でございます」と。(本文より)
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「虎の威を借る狐」ですね。
江乙って昭奚恤と親しかったのか、通じているのかわかりませんが、王の昭奚恤への疑惑を弁舌を持って回避します。
他にも任侠物のようなエピソードも盛り込まれています。
本作では智伯という政治家・武将が登場します。
けっこう、乱暴、強欲な人物として描かれています。
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趙 二三三、 晉畢陽之孫
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この智伯に豫譲という部下のエピソード。
山に逃れた豫譲は智伯を倒した襄子を殺害するため、身分を囚人に変え、襄子が使うトイレに隠れます。
<本文引用>------------
豫譲は山中に逃れ隠れて言うには、「ああ、男子は自分を知ってくれる人のために生命を捨て、女子は自分を愛してくれる人のために要望を整えるとか。さあ、自分も旧君智氏の讎(あだ)を報いよう」。そこで、姓名を変えて囚人となり、宮中に入って、便所の壁塗りををしながら、襄子を刺そうと窺がっていた。襄子は便所に行くと、急に胸騒ぎがしたので、壁塗りの職人を捉えて吟味してみると、豫譲であった。その鏝(こて)に刃物がつけてあって、「智伯のために讎を報いるのだ」と言う。お側のものは殺そうとしたが、趙襄子は、「彼は義士である。わたしが、慎重に避けていたら済むことだ。それに智伯はとっくに死んで子孫もいない。だのに、その臣が、旧君のために讎を報いようとまでする。これこそ天下の賢人である」と言って、結局、豫譲を釈放した。(本文より)
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豫譲を捕まえた襄子は、豫譲の義侠心を心を打たれたのか豫譲を釈放します。
今度は豫譲は襄子を殺害するため、橋の影に隠れます。
しかし、またしても、襄子に捕まります。
そして、襄子は豫譲に問います。
<本文引用>------------
その後暫くして、襄子が外出することになった。豫譲は、(襄子が)必ず通る筈の橋の下に伏して隠れていた。襄子が橋に差しかかると馬が驚いた。襄子は、「きっと豫譲がいるに違いない」と、人をやって尋問させると、果たして豫譲であった。そこで、趙襄子は豫譲を面責して言うにおは、「君は、以前に、范氏・中行氏につかえていたではないか。智伯が范氏・中行氏を滅ぼしたとき、君は(范氏・中行氏の)ためにを讎を報いないばかりか、かえって礼物を差し出して智伯に仕えた。その智伯はとっくに死んでいるのに、君は、どうして智伯にだけひたすら讎を報いようとするのか」と。(本文より)
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それに豫譲は答えます。
<本文引用>------------
すると、豫譲は言った、「臣は、范氏・中行氏に仕えましたが、范氏・中行氏は並の人間として臣を処遇しました。ですから、臣は並の人として報いました。智伯は、国中並びなき士として臣を処遇しました。ですから、臣は国中並びなき士として報いるのです」と。そこで、襄子は、感心のため息をつき、涙を流しながら、「ああ、豫君よ、君が智伯のため尽くす、その名分はすでに成った。わたしが君を許すのも、すでに十分である。君自ら計(はかりごと)を為すがよい。わたしは君を許すまい」と言い、兵に豫譲を取り囲ませた。(本文より)
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その話を聞き、襄子は悩みます。
そんな襄子に豫譲は頼みごとをします。
<本文引用>------------
豫譲が言うには、「臣は、『名君は人の節義を掩(おほ)い隠さず、忠臣は命を描しまずして名分を成し遂げる』と聞いております。君には先刻、すでに臣を寛容にお許し下さいました。天下こぞって君の賢徳をたたえぬものとてはこざいません。今日の事態については、臣はもとより誅に伏する覚悟です。だが、願わくば君の御衣を賜って、これを撃たせていただけたら、死んでもお恨みいたしません。願うべき筋合ではございませんが、恐れながら心底を申し述べた次第です」と。かくて、襄子はこれを天晴れして、使者に上衣を持たせて豫譲に与えた。豫譲は剣を抜いて三たび躍りかかり、天に呼ばわって襄子の上衣に撃ちかかり、「さあ、これで智伯どのにお報いすることできたぞ」と言い、とうとう、自害して死んだ。豫譲の死んだ日、趙国の心ある人々はこれを聞いて、みんな豫譲のために涙を流して泣いた。(本文より)
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襄子から衣服を貰った豫譲は、その衣服を刺し、そして、自害する。
こんな、時代劇のようなエピソードです。
ラスト下巻が楽しみです。
◆頭の中でシンクロした他の完読作品
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■読んだきっかけ:『戦国策 上 新釈漢文大系(47)』林秀一
■読んで知ったこと:約2500年以上前から存在した大量の偽情報で嘘を信じ込ませる作戦。
■今度読みたくなった作品:『戦国策 下 新釈漢文大系(49)』福田襄之介、森熊男
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