後で付け加えられた「ユダヤ戦記」の第七巻。
イスラエルの世界遺産の一つ「マサダ要塞」。
現代ユダヤ人にとって民族の誇りの高さを象徴する場所の一つであり、イスラエル国防軍将校団の入隊宣誓式は、この「マサダ要塞」で行われるそうです。
士官学校卒業生は山頂で「マサダは二度と陥落せず」と唱和し、民族滅亡の悲劇を再び繰り返さないことを誓うのだそうです。
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書名:『ユダヤ戦記 3』
著者:フラウィウス・ヨセフス
出版:筑摩書房(2002.04)
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著者は66年から73年までのユダヤ戦争の指揮官の一人で、戦争中、ローマにとらえられ、ローマの捕虜になった人。
捕虜になって改めてユダヤ戦争の前後を振り返り、記録し、まとめています。
本作は、筑摩書房版(文庫)『ユダヤ戦記』全三巻の最後である第三巻。
戦争終結を象徴するエルサレム神殿が炎上し、ユダヤ戦争が終戦するまでの話を収録しています。
また、この第三巻では、約半分は詳細な年表、索引、地図や、本作の訳者である秦剛平氏の充実した解説がおさめられています。
戦況はユダヤ人にとっては好転することなく、終盤を迎えます。
エルサレム神殿の状況です。
<本文引用>------------
都の中では飢えのために無数の者が次つぎと倒れていったが、その災禍は言葉では言い尽くせぬものだった。どこかに食べ物のある気配でもすれば、どこの家でも戦争があった。もっとも親しい者たち同士がほんのわずかの命の糧をめぐって奪い合いをした。瀕死の者でさえ食べ物を隠し持っているのではないかと疑われた。そのため、野盗たちは最期の息をしている者たちをさえ調べ上げた。衣服の下の胸の辺りに食べ物を隠して死んだふりをしているのではないかと疑ったからである。彼らは、飢えのために、狂った犬のように口を開け、家の戸口を泥酔漢のように激しく叩き、どうしていいか分からず、そのため同じ家に一時間たらずのうちに二度も三度も入り込んでくる始末だった。(本文より)
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“野盗たち”に“泥酔漢”。
まあ、すごい表現です。
本作では、ユダヤ人を表現する言葉としては他にも“叛徒”、“暴君”、“破廉恥漢”、“無頼の徒”、“ペテン師”、“偽預言者”などは登場しています。
まあ、ローマの捕虜になった人物がローマ皇帝に捧げる文書ですから、まあ、致し方ないのかもしれませんが。
やがて、悲劇的なマサダ要塞陥落に続きます。
ヨセフスは、マサダ要塞の様子を詳しく描写しています。
<本文引用>------------
その周囲が小さくはないこの屹立している岩山はどの面も深い渓谷で囲まれ、切り立っ崖の下は深くて底は見えない(ここは文学的誇張が見られる)。足場が悪いために人間や駄獣の接近は難しく、二方面の岩場からだけは、困難だが登れる。道のひとつは東側のアスファルティティス湖(死海を指す)から、他は西側からはじまっているが、西側の方が登りやすい。人びとは前者を「蛇の道」と呼んでいるが、それは道幅が狭く、至る所で曲がりくねっていて蛇に似ているからである。この道は突出した岩などがあると折れ曲がり、しばしば本来の道に戻り、そこから先少しばかり前へ進む。この道を登って行くには、足を着実に進めなければならない。(足を踏み外せば)確実に転落死である。なぜなら、片側にはつねに、どんな大胆な者でも震え上がらせる深い渓谷が口を開いているからである。このような危険な道を三〇スタディオン(一スタディオンは約一八五メートル)も突き進むと、ついに頂上に達する。頂上自体は屹立しておらず、平坦地になっている。(本文より)
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私、実際にマサダ要塞の頂上に登りました。(2018年11月)
ルートは、本作では“より困難”とされている東側の「蛇の道」。
看板に「Snake Pass」って書いてありました。
エレアザロスは要塞に立てこもるユダヤ人に自決を促す演説を行います。
<本文引用>------------
「 ~略~ (同志諸君!)われわれの妻が陵辱される前に、子が奴隷の身を経験する前に、彼らを死なせようではないか。そして彼らが逝ってしまったら、われわれも自由を埋葬用の高貴な包み布として保持しながら、互いに相手にたいして寛大な奉仕をしようではないか。
しかしそうする前にまず、われわれの持ち物と要塞を焼き尽くそう。そうすれば、わたしにはよく分かるのだが、ローマ兵たちは、われわれの肉体を制圧できないために、また期待した物にもありつけないために嘆き悲しむであろう。だが、食糧だけは残しておこう。なぜならそれは、われわれが死んだ後も、決してわれわれが食糧不足のために屈したのではなく、最初の決意どおり、奴隷になるよりも死を選んだことをわれわれのために証してくれるからである。」(本文より)
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実はマサダ要塞について触れてるのは、『ユダヤ戦記』の原書は全七巻。
しかも、『ユダヤ戦記』の原書はもともと全六巻だったのを、後になって加えた第七巻。
どうも、著者のヨセフス自身はマサダ要塞陥落を目にしたわけではないようです。
訳者である秦剛平氏が解説します。
<本文引用>------------
ヨセフスの誤用と濫用はキリスト教徒ばかりか、現代のイスラエルの考古学者や歴史家たち、あるいは政治家たちにまでおよぶ。それは『戦記』第七巻の末にある「マサダ」の玉砕記事のためである。死海の東岸にヨセフスの記述どおりの「マサダ」と呼ばれる要塞があり、本書にヘロデにはじまるその要塞の歴史が書かれており、考古学的な発掘物がヨセフスの記事によって裏付けられた以上、その玉砕記事も二〇〇〇年前の出来事を、忠実に再現しているに違いないというわけである。これは驚くべき単純素朴なロジックであるが、このロジックにより、それまで「民族の裏切り者」として冷遇してきたヨセフスに高い評価が与えられ、それにイスラエルのナショナリズムが見事なまでにドッキングされたのである。(本文より)
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マサダ要塞が陥落し、ユダヤ戦争は終結。
しかし、その後はローマが要塞を徹底的に破壊したため、しばらく所在が分からなくなったいたようです。
それが、1838年にドイツ人考古学者によって発見され、『ユダヤ戦記』に信憑性を与えたようです。
読んでいると、ユダヤ人が如何に愚かで亡国の民であることが自業自得であるような印象を与えます。
では、こんなことを書かれたユダヤ人は「こんなもん読めるか!」となったかというと、後で付け加えられた第七巻のおかげで、「俺たちは誇り高いんだ!」の根拠となったようです。
◆頭の中でシンクロした過去の完読作品
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■読んだきっかけ:『ユダヤ戦記 2』フラウィウス・ヨセフス
■読んで知ったこと:後で付け加えられた「ユダヤ戦記」の第七巻。
■今度読みたくなった作品:『ユダヤ人の起源 : 歴史はどのように創作されたのか』シュロモー・サンド
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