『典獄と934人のメロス』

関東大震災と横浜刑務所。

「・・・ 勇者は、ひどく赤面した。」
この文で作品名が浮かぶ人は、たぶん読書好き。
太宰治氏の名作『走れメロス』のラストシーン。私は小学校の教科書で読みました。
当時は全く想像しませんでしたが、どうも、メロスはいわゆる“フルチン状態”だったようです。
現代で同じように走ったら間違いなく、即逮捕ですね。

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書名:『典獄と934人のメロス』
著者:坂本敏夫
出版:講談社(2015.12)
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“典獄”というのは、“刑務所の所長”のことだそうです。
ずいぶん恐ろしい呼び名です。

関東大震災。
天災は、誰に対しても均等に降り注がれます。それは、囚人も含めて。
横浜刑務所も同様に被災を受けたようです。当たり前といえば当たり前ですか・・・。

そんな状態の中、椎名典獄は受刑者を24時間開放するという決断をします。
国中が震災によってダメージを受け、治安維持が困難な状況に、受刑者を24時間開放するということがどんなことを引き起こすのか。
なかなかすごい決断です。

一時的な解放にあたって椎名典獄が受刑者に向けた演説が素晴らしいです。

<本文引用>------------------------
「監獄法第二十二条の規定により、本日午後六時三十分諸君を解放する。解放とは二十四時間に限り無条件で釈放するということだ。明日の午後六時三十分までに、ここに必ず戻ってきてもらう。期限に戻らなかったときは逃走罪として罰せられることになるので、時間は厳守すること。よいな。(本文より)
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まずは、ルールを説明。
そして、そのあとの説明。

<本文引用>------------------------
しばし、静粛に聞いてほしい。裁判所から還ってきた者の話によると、市内は壊滅状態で阿鼻叫喚の地獄絵だという。われわれは火災に遭ったとは五体満足に生かされている。ありがたいことだ。とにかく感謝の気持ちをもって、良心に従い正しい行動をしてほしい。着衣はそのままだ。柿色の囚衣で襟には番号と名前まで書かれている。間違いがあれば名前を覚えられ官憲に告発されるだろう。反対に善行を尽くせば、いい人として記憶され、感謝されるだろう。(本文より)
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結果、囚人はみな戻ってきて、震災復興に取り組みます。
男手が足りず、24時間以内に戻ってこれない兄の身代わりに自分が刑務所に走って戻る妹の話も登場します。
まさに『走れメロス』ですね。

結果、典獄、看守、囚人は、信頼という見えないつながりでしっかり結びつき、震災を乗り切ります。

また、関東大震災で必ず出てくる朝鮮人へのリンチや、横暴になる自警団の存在など、囚人よりも一般市民のほうが危ないんじゃないかという描写も登場します。

「信頼されたいなら相手を信頼すること」
そんなことを痛感します。

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■読んだきっかけ:HONZ
■読んで知ったこと:関東大震災と横浜刑務所。
■今度読みたくなったもの:金菱清『呼び覚まされる 霊性の震災学』
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