『月刊正論2026年5月号』

高圧経済論とMSSE。

2026年9月、第2次高市内閣が発足しました。
この時に話題になったのが「役職希望アンケート」です。
これは自民党所属議員に事前に実施したアンケートで、この結果を重視して人選を行ったのだそうです。
あるジャーナリストはこのアンケートに対し、「派閥を解消してしまったために派閥からの推薦が無く、こんなことをやることになった」とややネガティブに評価していました。
じゃあ、以前はよかったのかというと、それもどうかなと。
大臣就任にあたってよく出てくるワードが「当選回数」。
もちろん、「当選回数」だけで決めているとは思いませんが、選挙での強さと、専門省庁のトップに立つ能力って関係あるのかな、なんて思ったりしています。

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書名:『月刊正論2026年5月号』
著者:月刊正論編集部
出版:日本工業新聞社(2026.04)
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本誌は1973年11月創刊の保守系の言論誌。
本号の特集は
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特集:高市トランプ同盟
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です。

「役職希望アンケート」とともに話題になったワードが「指示書」です。

高市早苗総理で話題になったのは、昨秋の初組閣時、閣僚向けに発出する政権の方針や政策上の柱、具体的な業務を文書化した「指示書」の全文公開に踏み切ったことです。そして今回の衆院選大勝を受けた第2次政権の発足でも、その方針を踏襲しました。
「指示書」は「閣僚指示書」や「大臣指示書」ともいい、内閣総理大臣が発足・改造した内閣の各閣僚(大臣)に対して、「政権としてこの政策を重点的に進めてほしい」という具体的業務を命じる公式文書です。
この「指示書」は、高市総理になって始まったものではなく、もともとあったものです。
では、なぜこれほど話題になったのか。

飯田泰之氏(明治大学政治経済学部教授)が寄稿する「サナエノミクスは何を目指すのか」。

<本文引用>------------
高市早苗総理は昨秋の初組閣時、閣僚向けに発出する政権の方針や政策上の柱、具体的な業務を文書化した「指示書」について、 全文公開に踏み切った。そして今回の衆院選大勝を受けた第二次政権発足でも、その方針を踏襲した。
従来もこの種の「指示書」は各閣僚に渡されていたし、格別の機密事項ではなかったようだ。それでも全面公開され、かつそれを定例化していく流れは今後の政策論議にとって有益だと感じる。(本文より)
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そして、この効果について飯田氏が詳しく解説しています。

<本文引用>------------
第一に、全面公開によって政権の目指す方向性について、メディアが切り取ることが出来なくなった。 
これまでも「指示書」のリーク報道はあった。記者にとっては、 有力政治家と個人的な信頼関係があることの証左となるし、大臣にとっても自身、あるいは自省庁にとって都合の良い形での情報コントロールを可能とした。「指示書」を巡ってはこのような双方にとってウィンウィンの構図が築かれていた。しかし、全面公開によって、こうした関係性は大きく変化するだろう。(本文より)
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2025年10月、高市早苗総裁への「囲み取材」を待っていた報道陣の一部が「支持率下げてやる」などと発言したとされる動画が拡散されました。
メディアが自分たちで支持率を上げたり下げたりできると思っている傲慢さが、見事に現れた発言です。
こうした感覚を持ったメディアを通すことなく、直接、国民にメッセージを届けることができるというわけですね。

これまで「高圧経済論」に関してたくさんの解説をしてきた飯田氏ですが、本稿では「MSSE」という経済理論を取り上げています。

<本文引用>------------
高圧経済論自体は一九七○年代から存在している。先に挙げたイエレン氏もかつてこの分野を研究していた。その要点を単純化すれば「人手不足、すなわち供給力不足の状況が、供給能力そのものを鍛える」という発想にある。人手が足りなくなれば、省力化のための技術投資が進む。また、労働市場が逼迫すると、これまで相対的に不利な立場にあった労働者も安定的な職を得やすくなり、OJTを通じて生産性向上の機会を得られる。さらに、景気の良い局面であれば、より条件のよい新産業へ移っていこうという前向きなリスキリングも起こりやすい。この場合は「失業を迫られて仕方なく」ではなく「もっと良い仕事があるから」という前向きなインセンテイブも働き得る。
ただし、こうした労働移動や人材育成は、景気が良ければ自然に起きるというほど単純ではない。
そもそも「新産業」とは何なのか。それが明確でなければ、労働者は移動しようがない。足元では、今後重要になる産業が製造業であることは次第に明らかになってきているが、ずっと事務職をしてきた人をどう製造業へ移すのか。そのためのリスキリングをどう設計するのかは簡単ではない。
加えて、不況が長引けば、人はとりあえずハードルの低いサービス産業へ流れる。巨大都市部への人口集中も起きやすい。高学歴層では、ここしばらく金融などが花形産業になってきたが、それらは大都市圏でないと成立しにくい産業でもある。ところが、製造業を振興しようとすれば、工場用地の制約などから労働現場は往々にして地方に置かれる。
そうすると、問題は単なる成長戦略ではなく、どうやって人を地城的に分散させ、都市への一極集中を是正し、必要な産業へと再配置するかになる。
そもそも、日本では転職市場が薄く、自発的離職による産業移動が起こりにくいという事情もある。(本文より)
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「高圧経済論」ですべて解決、ということにはならないんですね。

<本文引用>------------
こうした「高圧経済論」だけでは解決し得ない課題に対して、登場してきたのがMSSEである。アメリカでは「生産力主義」といった言い方がなされ、イギリスでは安全保障投資に近い文脈でも語られている。要するに、高圧経済論の理念である人材育成や労働移動を、具体的な政策に落とし込もうとするものなのだ。(本文より)
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「MSSE」は「Modern Supply-Side Economics」の略です。

以前読んだ『中央公論2026年6月号』の「高市政権の正念場 手段としての財政、目的としての官民投資」で、飯田氏は「現代サプライサイド経済論」として解説していました。
時系列的には今後は「現代サプライサイド経済論」が一般化するかも知れませんね。

調べてみると、「高圧経済論」が車のアクセルを踏むことだとすれば、「MSSE(現代サプライサイド経済論)」は車そのものの性能を上げることなのだそうです。
この「MSSE(現代サプライサイド経済論)」では、政府が半導体工場、研究開発、人材育成、インフラなどを支援する役割が求められるようです。



原英史氏(政策シンクタンク代表)の連載「暴走する新聞報道」第41回『「国土の均衡ある衰退」を断ち切れ』では、さまざまなデータを使って「東京一極集中」を再考するとともに、目指すべき政策を提言しています。

<本文引用>------------
「東京一極集中の是正」は、異論をはさむ余地のない政策課題のようにとらえられがちだ。しかし、考えてみると、おかしな点が多い。
まず、仮に一極集中が起きているとして、なぜ「是正」すべきなのか。生存・繁栄に適した場所への人口集中は、自然の摂理であり、人類の歴史上常に生じた。適切に集中してきたからこそ、人類は生き残り、文明が発達した。(本文より)
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さらに本稿では、「東京一極集中」に対する従来の事実認識についても再考していきます。

<本文引用>------------
「東京一極集中」という事実認識も間違っている。これは、八田達夫・アジア成長研究所所長や八代尚宏・昭和女子大学特命教授らが長年指摘してきたことだが、ポイントを三点あげておこう。
第一に、東京圏への人口集中は七○年代に終わった(図1)。高度成長期(一九五五~一九七〇年)には、都市と地方の所得格差が大きかったため、より多く稼げる都市圏への大規模な人口流入が生産性の高い成長分野に労働力が起きた。経済全体でとらえれば、 効率的に配分され、この結果、高い経済成長が実現した。
ところが、政治の事情から、自然の摂理と市場経済の原則に反する介入がなされる。「工場等制限法」による工場・大学の設置制限(一九五九年首都圈、一九六四年近畿圏)、一九六〇年代以降の高米価政策、さらに「日本列島改造論」(一九七二年)の掲げた「国土の均衡ある発展」を旗印に、公共投資の地方への偏った配分がなされた。こうして人為的に地方の所得が引き上げられた結果、都市圏への人口流入は急停止し、高度成長の終焉をもたらした。(本文より)
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掲載されているデータを見ていると、確かに「今も東京一極集中なの?」と思えてきます。

<本文引用>------------
取り組むべきことは三つだ。第一に、「東京を弱くする」政策の転換だ。さして効果があがっていないとはいえ、大学の定員数制限などは早急に取りやめ、「東京も強く豊かに」することを政策目標に掲げるべきだ。
第二に、主要都市への「多極集中」の促進だ。過疎地からの撤退は困難な課題だが、ほとんど使われない社会資本の維持にコストをかけ続けることはできない。二拠点居住などを制度的に促進しつつ、円滑な撤退を進めるべきだ。
第三に、「都市間の競争活性化」だ。東京を強くするためにも、競争が必要だ。国内一人勝ちに安住していては、国際競争力は低下するばかりだ。自民党と維新の会の連立合意で掲げられる「副首都構想」はこの観点で重要だ。
首都機能のバックアップとの観点が注目されがちだが、より重要なのは、東京と別の成長エンジンを作って競い合うことだ。場合によっては、かつて二十世紀初頭には一極集中していた大阪(繊維工業を中心とした阪神工業地帯)を戦後に東京が抜き去ったように、逆転の可能性もあるかもしれない。そうした競争に向け、特区方式での規制改革、都市インフラの強化などの制度整備が肝要だ。
さらに、副首都構想の延長で、「道州制」が本丸の課題だ。今後の日本は、地域の主要都市が支えることになる。これらを中心として、高度の自治権をもつ道州政府を設け、規制設計やインフラ整備など成長戦略を競い合うことが望ましい。これまでの「地方保護政策」ではなく、「地方の競争活性化」によってこそ、本当の「均衡ある発展」が可能になる。(本文より)
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ここで副都心構想につながるのですね。


最後は、雑誌の座談会「『左』も『右』もメッタ斬り! メディア裏通信簿」です。

<本文引用>------------
女史  ついでに言えば中道改革連合の小川淳也代表が衆院予算委員会で、WBCを球場で観た閣僚に挙手を求めて、逆にひんしゅくを買ってたね。
先生  ヤツは本当にセンスがない。あの質問、完全に逆効果だろ。
ちなみに、今回のWBCは日本ではネットフリックスの独占放送で地上波テレビでは観られなかったんだが、朝日新聞は天声人語で 「『無料でテレビ観戦』が当然だった世代としては、加入しないと見られないのは複雑な思いだ」とか書いていた。ちょっと待て。地上波も、NHK受信料を払う必要があったはずだが、天声人語の筆者は受信料なんて払ってないのかね(笑)。
まあ、カネ払ってまで観られない人はニッポン放送のラジオ中継を聴け、って話だったのかもな。(本文より)
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中道改革連合。
今ではこの名前を聞くと、「トクリュウ」や「受け子」や「公金チューチュー」というワードが浮かんできます。


◆頭の中でシンクロした他の完読作品
『月刊正論2026年5月号』 
『中央公論2026年6月号』


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■読んだきっかけ:『月刊正論2026年4月号』月刊正論編集部
■読んで知ったこと:高圧経済論とMSSE。
■今度読みたくなった作品:『月刊正論2026年6月号』月刊正論編集部
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月刊正論 2026年 05月号 [雑誌] - 正論編集部
月刊正論 2026年 05月号 [雑誌] - 正論編集部


『列子 新釈漢文大系〈22〉』

「疑心暗鬼」の元ネタ。


自分では、値段的にも、置くスペース的にも買えない本があります。

そんな本の一つが明治書院の「新釈漢文大系」です。

全120巻で、1冊10,000円前後。

それに加え、1冊が結構重いのです。

でもこの「新釈漢文大系」。

図書館には高確率で置いてあります。

全巻読み終えるには何回図書館に通うことになるのかはわかりませんが、全巻読んでみたいものです。


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書名:『列子 新釈漢文大系〈22〉』

著者:小林信明(著)

出版:明治書院(1987.12)

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列子は、中国の戦国時代(紀元前5世紀 - 紀元前221年)における諸子百家の一人、列禦寇(れつぎょこう)の尊称。

本作は列子によるものとされる道家の思想書であり、『老子』『荘子』と並ぶ重要文献として知られています。


実際にページをめくってみて面白かったのは、抽象的な哲学論だけでなく、まるでSFのような奇想天外なお話も収められている点です。


たとえば有名な「朝三暮四(ちょうさんぼし)」。

ずっと『荘子』が出典だと思い込んでいましたが、実は『列子』にも同じお話が収められていたのには驚きました。


<本文引用>------------

宋の国に猿飼いと呼ばれる男がいた。大変に猿を可愛がり、飼っている猿が群れをなしていた。この猿飼いは、猿の腹の中を読むことができるし、猿もまた猿飼いの考えがわかった。その結果、家族の人数を減らしてまでも、狼の要求を満足させるに努めた。ところが、急に貧乏になってしまった。そこで、猿の食いふちを制限しようと考えたが、猿の群れが自分になつかなくなってしまうのではないかと心配して、最初に猿をだまして次のように言った、「お前たちにどんぐりの実をやるのに、朝三つで晩四つにしようと思うが、どうかね」と。すると、猿の群れは皆起ち上がって怒り出した。と、急にことばを変えて、「お前たちにどんぐりの実をやるのに、朝四つで晩三つにしようと思うが、どうかね」と言った。 すると、猿の群れは、一斉に頭を下げて喜んだ。およそ物ごとというものは、利巧なものと馬鹿なものとがくるめ合っていて、すべてこの話のようなものだ。聖人が智恵をはたらかせて多くの頭の鈍い者たちをくるめるのも、ちょうど選飼いが智恵をはたらかせて猿の群れをくるめるようなものである。分けまえは少しも減ってはいないのに、相手を喜ばせたり怒らせたりさせる。(本文より)

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心臓にまつわるエピソード。


<本文引用>------------

文摯はそこで竜叔に言いつけて、明かるい方を背にして立たせた。文摯は、そのあとで、明かるい方に向かってじっと見つめた。やがていうには、「ああ、私はあなたの心臓を見た。一寸四方の場所が、からになっていた。これは聖人に近いということができる。ところが、あなたの心臓の六つの穴はよく通っているが、一つの穴は通っていない。今、あなたが聖人でありすぐれた知者であることを病気だと考えたのは、このせいだかも知れない。私の至らぬ腕前などでは、 到底直せるものではありません」と。(本文より)

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光を当てて心臓を観察する様子は、まるで現代のレントゲン検査を思い起こさせます。


驚くべきは、紀元前5世紀の時点で「心臓」という臓器がはっきりと特定され、生命の中核として極めて重要な役割を果たしていると知られていたことです。

当時においては、人間のあらゆる精神活動や身体機能を司る最高枢軸こそが、この心臓であると考えられていたのでしょう。


<本文引用>------------

魯の国の公扈という者と、趙の国の斉嬰という者と、この二人は病気にかかっていた。それで一緒に扁鵲にお願いして、手当てしてもらいたいと頼んだ。扁鵲は、これに手当てをしてやった。やがて両人とも、全快した。すると扁鵲が公扈・斉嬰に向かって言うには、「君らが前かた病気になっていたのは、外から内臓を犯していたもので、もちろん治療で直せるものであった。ところが、ここに、生まれた時から持っている病気があって、身体の成長につれて悪くなってきている。そこで一つ、君らのためにこれを直してあげようと思うが、どんなものだろうか」とのことであった。二人の者が、「ひとつ何より先に、どういったことなのか承りたい」と答えると、扁鵲は公扈に向かって、「君は意志が強いのに、気力が弱い。だから、計略は十分立つが、決断実行の力に欠けている。また、斉嬰の方は、意志は弱いのに、気ばかりが強い。だから、思慮に欠けていて、独断専行になり過ぎている。若しも君らの心を取り替えっこしたならば、どちらもりっぱになると思うのだ」と述べた。(本文より)

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性格が正反対の人間の心臓を取り替えたらどうなるか?


<本文引用>------------

そこで扁鵲は、ついに二人に毒のはいった酒を飲ませた。すると、三日もの間、仮死状態になった。 扁鵲は二人の胸をたち割り、心臓を取り出し、入れ替えて、しまい込み、終わって不思議な効能のある薬を盛った。やがて目がさめると、以前と少しも変わりがなかった。それから、二人は辞去して家へ帰ったが、この時、公扈は斉嬰の家へ返って行って、その妻子を自分のものとしようとしたところ、妻子の方では、見たこともない人であった。斉嬰の方でも、同様に公扈の家へ返って行って、その妻子をわがものとしようとしたところ、そちらの妻子の方でも、やっぱり一面識もない人であった。それで、両家では、一緒になって訴え出て、扁鵲にことの次第を明らかにするよう要求した。扁鵲がその由って来たるところを明らかにしたところ、訴えは取り下げになった。(本文より)

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麻酔、切開、縫合、そして投薬という一連の手順もさることながら、「心臓を交換することは、人間の中身(精神や性格)そのものを入れ替えることと同義である」という身体観・人間観が、すでにこの時代に成立していた点には驚くほかありません。


「疑心暗鬼」。

私はこれを「人が生きていくうえで必ず抱く普遍的な心理」と捉え、普段の人間関係やコミュニケーションを築く際の前提としています。


<本文引用>------------

ある人に、おのをなくした人がいて、その隣りの家のむすこのせいではないかと疑った。すると、その子の歩きっぶりを見ても、おのをかすめた人物に見えた。顔色を見ても、おのをかすめた人物に見えた。物の言いっぷりを見ても、おのをかすめた人物に見えた。その他の動作からものごしまで、することは一つとして、おのをかすめた人物のしぐさでないものはなかった。ところが、しばらくして谷間を掘り返したところ、そのおのが出てきた。後日になってまたその隣りの家のむすこを見ると、動作からものごしまで、おのをかすめた人物と疑うようなふしは一つもなかった。(本文より)

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斧を失くした。

 ↓

隣人を疑う。

 ↓

隣人を見ると何から何まで泥棒に見えてくる。

 ↓

斧が見つかった。

 ↓

隣人を見ると泥棒には見えなくなる。


実は、『列子』の原文を読んでも「疑心暗鬼」という言葉そのものは出てきません。

調べてみましたら、この四字熟語としての出所は『列子』本文ではなく、南宋の儒者・林希逸による注釈書『列子鬳斎口義』で、この寓話を説明する際に次のように述べているのが由来だそうです。


「諺に曰く、疑心、暗鬼を生ずと」


『列子』にはこのほかにも、救いようのないブラックなお話や、精巧なロボットが登場する奇想天外なお話など、実に多様なエピソードが収められています。



◆頭の中でシンクロした他の完読作品

『列子 新釈漢文大系〈22〉』 


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■読んだきっかけ:図書館

■読んで知ったこと:「疑心暗鬼」の元ネタ。

■今度読みたくなった作品:『墨子 上 新釈漢文大系〈50〉』山田琢

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新釈漢文大系〈22〉列子 - 小林 信明
新釈漢文大系〈22〉列子 - 小林 信明





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『イラン現代史-イスラーム革命から核問題、対イスラエル戦争まで』

補助金によって価格を下げているイランのガソリン。


1979年、イラン革命の勃発に伴い「アメリカ大使館人質事件」が発生しました。

以降、両国の関係は緊張緩和と対立を何度も繰り返してきた歴史があります。

これまでの米イラン関係の推移を辿ると、おおむね以下のように整理できるのではないでしょうか。

  カーター:イラン革命と大使館人質事件により国交断絶         ムカッ(`ω´*)

  レーガン〜子ブッシュ:敵対関係の継続と厳しい経済制裁      ムカッ(`ω´*)

  オバマ:イラン核合意の締結により緊張緩和(融和)へ        (´・ω・`)ナデナデ

  第1次トランプ:核合意からの離脱と再びの対立激化           ムカッ(`ω´*)

  バイデン:交歓・交渉の試みも関係は膠着                        (´・ω・`)ナデナデ

  第2次トランプ:対話の模索と強力な軍事圧力が同時進行    ムカッ(`ω´*)

このように、時代の政権によって二国間関係は大きく変転してきました。


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書名:『イラン現代史-イスラーム革命から核問題、対イスラエル戦争まで』

著者:黒田賢治(著)

出版:中央公論新社(2025.11)

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著者は国立民族学博物館博物館グローバル現象研究部准教授。

イランの現代史を解説します。


2005年8月3日、イランの第6代大統領としてアフマディーネジャード氏が就任しました。

彼は「イスラエルは地図上から抹消されなければならない」といった過激な発言でも知られ、対イスラエル強硬派として強く警戒された人物です。


<本文引用>------------

ポピュリズム的経済政策が暗礁に乗り上げるなかでアフマディーネジャード政権が支持率を確保するための戦略の一つが、諸外国への挑戦的な姿勢であった。

アフマディーネジャードは大統領に就任すると、ウラン濃縮がイランの権利であると折に触れて繰り返した。また彼は米国大統領に対して挑発的に核問題の交渉を要求したかと思えば、 二〇〇八年には米国の中東地域での歴史的な責任を追及したり、米国同時多発テロ事件を矮小化する発言を行った。またイスラエルには、国家の存在を否定するのみならず、第二次世界大戦中に行われたナチスのユダヤ人へのホロコーストを否定し、国際的な非難を浴びた。(本文より)

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でも、国内ではどうか?

案外、高い支持を得ていたりして。


<本文引用>------------

ハータミー大統領が改善したイランの国際的イメージは一気に崩れ去った。国内でも「改革派」やリベラルな知識人たちには、アフマディーネジャードの発言は頭を抱える問題であった。(本文より)

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舌鋒鋭く極端な発言を繰り返す政治家が国のトップに立ってしまうというのは、どの国においても頭の痛い問題なんですね。

こうした過激な言動で物議を醸したアフマディーネジャード政権も、2013年8月3日に終焉を迎えます。



本作では、現代イランの意外な日常風景についても詳しく解説されています。


まずはガソリン事情について。

産油国だから当然安いのだろうと思いがちですが、実はその安さは単に産油国だからという理由だけで実現しているわけではないようです。


<本文引用>------------

イランでは、ガソリン価格が非常に安価である。産油国であれば当たり前のように思われるが、補助金が投じられてきたからである。イランで消費されるガソリンは国内生産だけでは賄えない。需要に対して精製能力が追いつかず、マレーシアなど国外で精製したガソリンも輸入されてきた(図8参照)。特にハータミー政権末期からアフマディーネジャード政権の第一期にかけて輸入量が増加してきた。石油の国際市場価格が上昇するなかで、国内需要を満たすためにガソリンを輸入し、さらに安価に提供するために補助金を出すことは、当然ながら財政を圧迫する。たとえば、二〇〇八年の国際的なガソリン価格の平均は一リットルあたり約二米ドルであったが、イランでは一リットルあたり約○・一米ドルという異常な安さであった。(本文より)

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原油の産出量と、それをガソリンに変える精製能力は別物なんですね。

そういえばウクライナ戦争でも、ロシアの製油施設がドローン攻撃を受けたことで、国内でガソリン不足が発生していました。


さて、イランといえば強い存在感を示すのが「革命防衛隊」です。

そもそも革命防衛隊とは、一体どのような組織なのでしょうか。


<本文引用>------------

革命防衛隊は軍事組織であるが、その活動は軍事活動に留まらない。ハーメネイー指導体制下で革命防衛隊とその傘下のバスィージが、政治、経済、そして文化へと多角的に展開してきたからだ。 (本文より)

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イランの社会・政治・軍事のあらゆる面で絶大な影響力を誇るのが、ボランティア民兵組織「バスィージ(Basij)」です。

その正式名称は「イスラム革命防衛隊(IRGC)傘下 弱者動員部隊」であり、草の根レベルで体制を支える核心的な組織として機能しています。


<本文引用>------------

ホメイニー師は文民統制を重要視し、革命防衛隊を含めた軍の政治参加を牽制してきた。そのため選挙戦への革命防衛隊と国軍の推薦を実質的に禁止した。しかしハーメネイー師の時代に状況は変化した。最高指導者に就任したばかりのハーメネイー師の権威は政治的にも宗教的にも脆弱であり、自身の支持基盤の強化を図る必要があった。(本文より)

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社会のあらゆる側面に根を張ることで、革命防衛隊の影響力は急速に拡大していきました。



コロナ禍の日本において、未着用者へ過剰な注意や攻撃を加える「マスク警察」という俗称が生まれましたが、イランにおける市民への風紀指導は単なる個人の過剰反応にとどまりません。

厳格なイスラム的規範や服装規定を、国家権力として取り締まる専門組織が存在するのです。それこそが「風紀警察(指導パトロール)」です。


<本文引用>------------

風紀警察(ギャシュト・エルシャード)はハータミー政権末期の二〇〇五年夏に設立された。風紀警察の職務は、ヘジャーブを着用していない、あるいは不十分な女性に、正しい着用を「指導」することである。男性に対しても、たとえばズボンを腰より下に低くずらす「腰パン」のような、恥部が隠れていない服装について正しく指導するのである。風紀警察は、当初は指導に留まっていたが、数ヵ月後には逮捕という強制的「指導」に変わった。(本文より)

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アメリカが目指してきた「イランの核完全放棄」という目標は、開発ペースを一時的に遅らせることはできても、長期的に実現することはもはや不可能に近いのではないか――そう痛感させられます。


<本文引用>------------

欧米を中心とする国際社会は、イランはもっと国際的に協調する「正しい」国になっていくべきだと考え、経済制裁や軍事的な介入を行ってきた。しかしイランに生きる人にとっては、どうだろうか。自分たちを苦しめる相手の価値観を、「正しい」と思うことができないのは当然だろう。そこからさらに一歩進んで、「不当な」圧力をかける米国に、「正しい」イランは抗しなければならないのだという考えも生まれてくる。

こうした論理が米国の脅威に屈することなく対抗するというイランの世界観を醸成してきたのである。(本文より)

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何をもって「正しさ」とするかは、国ごとの価値観や歴史によって全く異なります。


自らの人道的な理念に基づいて多くの移民・難民を受け入れたものの、その結果として社会的な混乱や治安問題に直面している現在のヨーロッパの姿を見ていると、それぞれの国が掲げる「正しさ」を追求することの難しさを、つくづく痛感させられます。



◆頭の中でシンクロした他の完読作品

『イラン現代史-イスラーム革命から核問題、対イスラエル戦争まで』

『改訂増補 イラン現代史: 従属と抵抗の100年』

『イランvsトランプ』 


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■読んだきっかけ:『改訂増補 イラン現代史: 従属と抵抗の100年』吉村慎太郎

■読んで知ったこと:補助金によって価格を下げているイランのガソリン。

■今度読みたくなった作品:『戦争の記憶と国家ー帰還兵が見た殉教と忘却の現代イラン』黒田賢治

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イラン現代史-イスラーム革命から核問題、対イスラエル戦争まで (新書) / 黒田賢治 (著)+[販売店ノベルティー]2025年11月20日発売 イラン 歴史 中東情勢
イラン現代史-イスラーム革命から核問題、対イスラエル戦争まで (新書) / 黒田賢治 (著)+[販売店ノベルティー]2025年11月20日発売 イラン 歴史 中東情勢





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