対人監査、一致監査。
昔、友人の家で読んだ漫画『ファンキー・モンキー・ティーチャー』。
酒もタバコも女もバリバリ決めて、ヤンキーよりもキレてる教師戸沢康平が主人公の漫画です。
容姿のレベルがかなり高い女生徒と、かなり低い女生徒が出てくる回がありました。
レベルがかなり高い女生徒が「遅刻しました~」というと、戸沢は鼻の下を伸ばして「いいよいいよ」と返事をします。
今度は、レベルがかなり低い女生徒が「遅刻しました~」というと、戸沢は鬼のように怒りだします。
その女生徒が「先生ひどいです、それは差別です!」と抗議すると、戸沢は「これは差別ではない! 区別だ!」と返事をします。
「区別と差別って、こうやって使い分けるのか・・・」と思いながら読みました。
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書名:『可視化される差別―統計分析が解明する移民・エスニックマイノリティに対する差別と排外主義』
著者:五十嵐彰(著)
出版:新泉社(2025.02)
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著者は大阪大学人間科学研究科准教授。
エスニックマイノリティの可視化を解説します。
「エスニックマイノリティ(Ethnic Minority)」とは、ある国や社会のなかで、マジョリティ(多数派)とは異なる独自の言語、宗教、文化、歴史的な背景を持つ少数派の集団を指す言葉です。
「俺は差別主義者だ」と人前で発言することがはばかられる昨今、その一方で、まだまだ差別はあると言われています。
では、その差別をどうやって可視化するのか?
<本文引用>------------
本節で紹介するフィールド実験は、①対人監査(in-person audit)、②一致監査(correspondence audit)と呼ばれる二つである。この二つを合わせて監査調査法と呼ぶ(audit study)。監査調査法とは「フィールド実験の一種で、研究者が個人(現実または仮想)の一つまたは複数の特性を無作為に設定し、これらの個人をフィールドに送り出し、その特性が何らかの結果に及ぼす影響を検証するもの」(Gaddis, 2018:6)である。現代社会科学の差別研究は、監査調査法なくして語ることはできない、といっても全く過言ではないほどに主流となった方法である。
対人監査は図表1-1のように、実際に人を面接などの場に派遣する方法であり、一致監査は図表1-2のように、履歴書や何か文章などを研究対象となる会社などに送付する方法である。両者に共通する特徴として、履歴書や求職者を送り込む先、例えば企業の求人や不動産業者の入居者募集などは基本的に本物であり、そこに研究者側が用意した偽物の履歴書や求職者などが送り込まれる。企業の採用担当者は求職者や履歴書が偽物だとは知らされず、実際に就職面接だったり履歴書チェックだったりを行うことになる。そのため、企業の採用担当の実際の自然な行動を知ることができる。(本文より)
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へー、こうやって相手に書類を送り、その反応を見ることで、差別を測定することができるんですね。
<本文引用>------------
さらに、図表4で示した態度の分析はもう一つ重要な意味をもっている。採用担当者個人の態度の効果がそれぞれの国籍で異なっており、アメリカ人に対する態度の効果が最も小さく、韓国人に対する態度の効果が最も大きい。これはアメリカ人の採用に対して人事の態度が反映される度合いが小さく、採用担当者がアメリカ人を好んでいようがいまいがアメリカ人の採用はあまり変わらないことを指す。他方、韓国人に対しては採用担当者の態度に影響される度合いが大きく、人事が韓国人を好んでいる場合は大幅に採用確率が上がり、好んでいない場合には採用確率ががくっと下がる。こうした差は、おそらくそれぞれの国籍に対する世間一般の態度を反映しているのだと解釈できる。外国籍の中だと、日本ではアメリカ人が最も好まれ、中国人や韓国人が好まれていないという傾向がある(五十嵐、2015a: Igarashi & Mugiyama, 2023)。アメリカ人のように社会的に好まれているグループだと、人事の好みを反映させにくいのだろう。他方、韓国人に対しては社会的に好まれていないというイメージがあると人事が認識しており、そのため自分の好意的な態度をより強く反映させたがるのだろう。ここから、日本にもアメリカやヨーロッパと同様に雇用の段階で差別があり、その度合いが採用担当者の排外的態度によって左右される、つまり嗜好に基づく差別が生じているといえる。(本文より)
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アメリカ人、ブラジル人、中国人、韓国人の調査が紹介されています。
それそれが自分と同じ人種に対する反応と、自分と異なる人種に対する反応を比較しています。
面白いのがアメリカ人って、その人種に対する反応はあまり変わっていないんですね。
一方、韓国人は韓国人とそれ以外の人種に対する反応は大きく異なっているんですね。
こうした差別感情は矯正できるのか?
とりわけ、こうした差別感情の根源が誤情報によるものだとしたら?
本作では、誤情報の訂正が差別感情の矯正に効果があったかの研究結果を紹介しています。、
<本文引用>------------
ただし、誤情報の修正が常にうまくいくわけではない。すでに述べた通り既存の研究のほとんどが回答者に対して情報を研究者側から与えるというものだが、現実にはそうした場面はなかなかないだろう。第5章(279ページ)でも触れたように、人は情報を選択的に選ぶ傾向があり、自ら進んで情報を取得することは稀である。こうした傾向を検証するために、正確な情報を得るかどうかを回答者に委ねるという、より現実の状況に即した実験もある。回答者はウェブ画面上で1クリックをするだけで正確な情報を得ることができるのだが、人々はこれだけの労力を惜しみ、実験に参加した半分以上の人が情報を取得しないという選択をした(Choi, Choi, & Kim, 2023)。つまり、仮に正確な情報が人々の排外主義を低下させるとしても、その情報にいかに触れてもらうかが課題となる。近年ではメディアのファクトチェックや、SNS上でも誤情報に対してユーザーが修正を行うことができるようになっている。ユーザーによる情報修正の効果については研究結果が分かれており(Chuai, et al., 2023; Martel & Rand, 2023)、今後の展開がまたれる。
回答者が抱く誤情報を修正しても、排外主義が低下しないという研究も一部ある。正確な移民割移民が働き者だという情報を示しても、排外主義などが変わらなかったという結果が報告されている(Alesina, Miano, & Stantcheva, 2023; Hopkins, Sides, & Citrin, 2019: Huang, 2023)。また正確な情報を提示すると、回答者は自身の情報をアップデートするものの、排外主義を低下させるには至らなかったという研究もある(Barrera, et al., 2020)。ただ、こうした反証論文がいくつかあるものの、ドイツの研究者であるシェイファーム(Schaeffer & Dochow-Sondershaus)が現在進めているメタ分析の結果によれば、全体的に情報修正には効果があるようだ。(本文より)
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なかなか難しいですね。
もっとストレートな矯正方法も紹介しています。
<本文引用>------------
最後に、現場において差別禁止が施行された際の効果についてもまとめよう。いかに反差別政策が打ち立てられようとも、十分に現場で施行されていないと差別は減少しない。第2章(722ページ)で見たような一致監査の研究に、実験的な介入を組み合わせた研究が住居差別の領域で行われている。実験者(つまり偽の借り主)が大家に対して家を借りたいという連絡をするところまでは住居差別の研究と同様なのだが、連絡の前に大家に対して住居差別は禁止されているという警告を送り(ランダムに大家を選び、一部の大家には差別禁止の警告を送り、その他の大家には何も送らない)、その数週間後、実験者が大家に対して部屋を借りたい旨を連絡する。こうした手続きの結果、何の警告も受け取っていない大家と比べ、差別は処罰されるのだという警告を受け取った大家において、一部のエスニックグループに対する差別が減少した(Fang, Guess, & Humphreys,2019)。こうした効果は他の研究でも観測されており、差別が禁止されていると警告することは現場レベルの差別を減少させるのに効果的なように思われる。ただしこの警告の効果の持続期間に関しては結果が割れており、1週間経てばほとんど前の水準に戻るという研究もあれば(Murchie, Pang, & Schwegman, 2021)、警告の効果が少なくとも2年持続するという研究もある (Chareyron,et al, 2023)。(本文より)
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口では「差別はいけない」と言いつつ、行動としては差別的な行動をとる。
これを可視化する手法が詳細に解説されており、大変興味深い一冊でした。
◆頭の中でシンクロした他の完読作品
『可視化される差別―統計分析が解明する移民・エスニックマイノリティに対する差別と排外主義』
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■読んだきっかけ:図書館
■読んで知ったこと:対人監査、一致監査。
■今度読みたくなった作品:『不倫―実証分析が示す全貌』五十嵐彰、迫田さやか
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