阪神タイガーズの“伝統芸”の原点。
私はユニフォーム着たり、球場に足を運んだりはしないものの、大好きな球団は「阪神タイガース」です。
選手の活躍も好きですが、私は選手を取り巻く球団のドタバタぶりや、ファンの熱狂ぶりが好きです。
優勝のたびに繰り返される道頓堀川へのダイブ。
ニュースなどではさんざい「汚い」と言われ、過去にも事故が起きた道頓堀川。
2023年の日本一では37人がダイブしたそうです。
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書名:『虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督』
著者:村瀬秀信(著)
出版:集英社(2024.02)
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著者はノンフィクション作家。
阪神タイガーズの“伝統芸”ともいわれる「お家騒動」の原点を探ります。
冒頭、著者は阪神タイガースを解説します。
<本文引用>------------
だけど、なんでなのか。勝てやしないのだ。
誕生以来、終生のライバル球団と目した巨人軍は、その歴史において38回の優勝と22回の日本一という永久不滅な輝かしい戦績を誇っている。それなのに、タイガースは巨人、福岡ソフトバンクホークス(南海~福岡ダイエー)に次ぐ勝利数を持ちながら、2リーグ制の分裂後は、優勝回数5回、日本一に至っては1985年のたった1回というなんとも不可解な結果を残している。
それは道頓堀に落としたカーネル・サンダースの呪いか、はたまた『Vやねん』の戯れか。もしくは本気でベンチがアホやから野球ができへんかったのか。藤村富美男とダイナマイト打線に、小山正明・村山実のWエース。江夏豊・田淵幸一の黄金バッテリーが輝けば、バックスクリーン三連発に、亀新フィーバー、JFK。 球団創設の昔からキラ星の如き英雄・豪傑・猛虎たちが躍動し、彼らの姿に甲子園のスタンドはオウオウオウオウと他球団を震え上がらせる咆哮を轟かせていた。
だが、いいところまでいっても、最後にはお家騒動とドタバタ劇が起こってしまうその哀しき因業。ダメ虎・虎ブル・虎ディショナル。前述した生え抜きの大スターたちは、失意のうちにタイガースを去った。首脳陣と親会社は確執を起こし、チームはバラバラに解体され、期待の新監督はボロ雑巾のように叩かれて辞めていく。いつの間にかトラッキーの中の人の人までいなくなってしまう冗談みたいな伝統は、いったいどこから始まったものなのか。
ずっと気になっていた。タイガースは何かがおかしい。熱狂的すぎるファンだとか、圧倒的な地域性もだが、もっと根本的な何か。戦っている対象が他球団とは違うのだ。(本文より)
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私にとって藤村富美男といえば「新必殺仕置人」の「虎の会」の元締めのイメージしかないのですが、江夏豊・田淵幸一の黄金バッテリーはかろうじて記憶があります。
球団トップが「あんただれ?」という人を監督に抜擢したことから話が始まります。
岸一郎監督。
しかし、岸一郎監督は1シーズンを全うすることなく、途中で、監督としての座を降ります。
<本文引用>------------
ツーアウトからこの日ノーヒットの4番藤村富美男が勝負を避けられフォアボールで出塁すると、岸監督が勝負に動く。
「代走・山本テツ」
ベンチから3年目のキャッチャー山本哲也が小走りに一塁ベースへ駆けていく。
「ファーストランナー、藤村に代わりまして山本が入ります」
異変が起きていた。場内アナウンスで山本の名がコールされても、一塁ベース上から藤村がなかなか動こうとしないのだ。
「オマエは帰れ!」
藤村は虎の形相で山本を怒鳴りつけていた。わけもわからぬまま怒られた山本は、どうすることもできず、所在なさげにすごすごと三塁ベンチへと引き返していくしかなかった。
前代未聞の交代拒否。藤村とすれば、まだ試合は7回なのだ。ここで二死一塁から足の山本に代えて得点に至る可能性より、打線を崩さずにもう一度藤村に打席が回ってくるこを待つ方が勝利への可能性が高いと考えた。そのうえで交代を拒否したのだろうが、とはいえいま現場の指揮権を持つのは岸一郎その人である。(本文より)
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会社でも新任マネージャーの指示に対し、ベテラン社員が反旗を翻し、若手がそれに挟まれて・・・という場面と同じですね。
チームのスター選手、藤村富美男を中心とした勢力に、岸監督は追い出されます。
面白いのは、そのあと。
じゃあ、藤村富美男監督を中心にチームがまとまるのかというと、どうもそうではないようです。
<本文引用>------------
「まだ続けるつもりなんか。あの人がホームランを打ってワシらが凡打でもしようもんならボロクソ言われるからなぁ。いつまで続けるつもりなんやろう」
監督就任会見での村の言葉を伝え聞いたタイガースのある主力選手は、あからさまにふんたん憤嘆したという。チーム内には、藤村の兼任監督に対する不満の空気がじっとりと滞留していた。
岸から指揮官を譲り受けた昨年の5月後半以降、藤村は「ファイトを燃やして全員を引っ張る」の言葉通り、選手たちに激しい叱咤を飛ばして戦った。それはチームを鼓舞したといえば聞こえがいいが、実際の現場ではミスを犯した選手に対しては大声で怒鳴りつけ、自分が活躍した時には「こうやって打つんや」と得意満面に振る舞うこともあったという。当時のある中堅選手が回想している。
「藤村さんはスーパースターであるがゆえに、自分以外の選手が活躍すると嫉妬心を露わにしました。プレイヤーとしての対抗心は大事なことなのかもしれないけど、他人の殊勲を自分の手柄に横取りしてしまうようなことを、監督になってからもやっていては選手の心はれていきますよ」(本文より)
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そして、それは、先ほどの「岸 VS 藤村」と同じように、試合中に露見します・
<本文引用>------------
一度火がついた炎は試合に入っても収まることはなく、中途半端な走塁で金田がアウトになるのを合図に、2匹の虎がついに牙を交えた。
「カネ、ちゃんとスライディングせえや」
ベンチに帰ってきた金田を藤村が大声で叱責する。金田も負けずに言い返す。
「おい、フジさん。あんたにだけは言われたくないわ。あんたスライディングしたことあんのか?」
雌雄の虎と喩えられたこともあるベテラン両巨頭による一触即発の空気に、ベンチの中はすべての生き物が死に絶えたかのように静まり返った。絶望である。若い選手たちにとっては、無能かもしれないが、少なくとも無害ではあった岸一郎の方がよっぽどマシだった。(本文より)
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そして、そんな藤村冨美男が今度はチームを追われます。
当時の阪神タイガースの藤村冨美男といえば、読売ジャイアンツの川上哲治とならぶスーパースター。
<本文引用>------------
同じ年代に同じように活躍し、両チームで代わりの利かない存在として大きな人気を得た2人のスーパースター。しかし、その後の2人の運命は大きく離れていき、それはまた、巨人と阪神の根本的な体質の違いを明確にしていく。
巨人の川上哲治はこの年の引退後ヘッドコーチとなって2年間、水原円裕監督に仕えた。1960年大洋の三原脩に敗れ、カメラマンへの暴行事件で休養した水原に代わり、巨人軍の第9代監督に就任。永久不滅のV9という偉業を成し遂げ名将の名をほしいままにした。
一方の藤村富美男は、この年を最後にタイガースへと帰ることは二度となかった。(本文より)
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もとの球団とのその後の関わりって、こんなにも違うんですね。
岸が追われ、藤村が追われ・・・。
その後もこの流れが止まることは無かったようです。
<本文引用>------------
藤村富美男もまたタイガースの伝統を守ろうとしたのだ。そして、岸一郎を追い出すことにも成功した。だが、監督の岸に対する一連の横暴な態度は、一部選手たちからの明らかな反感を買ってしまい、結果自身の首を絞めることにもなってしまった。
「岸一郎の途中解任があって、その翌年には藤村排斥事件や本来絶対的な存在である“監督に選手が勝つ”というあってはならんことが続いて起きた。それ以来のタイガースはずっと選手が王様やねん。逆にいえばどれだけ愛された選手でも監督になればポロカスや。金本知憲を見てみぃ。『アニキ』やら『金本さま』やら、どれだけ神様みたいになったか。連続試合フルイニング出場で世界記録を作った時には記念碑までこしらえて、本物の神様みたいやった。それが監督になって勝てなくなった途端に、一気に『なんやあいつ』となってしまうやろ。この変わり身はおそろしいで」
野球界には、“名選手は名監督に非ず”という格言があるように、現役時代は名選手と呼ばれ順当に監督となったスターが、勝てずにボロボロにされて現場を去ることはよくある話なのかもしれない。ただ、タイガースのレベルはケタ違いだ。前述の金本、そして前監督の矢野燿大も、やり方次第では名将になれたような気がしてならない。ファンには「負広」と呼ばれ、久万オーナーに「スカタン」呼ばわりされた中村勝広。安打製造機として暗黒期を支えた和田豊のスパイスはスキャンダルも絡めておもちゃにされ続けた。
藤田平は選手時代に「安藤監督の下ではやってられない」と引退・退団しているが、監督となるや新庄剛志に采配を批判され「阪神を辞めたい。環境を変えたい」とトレード志願。さらには「ぼくにはセンスがない」と引退宣言までされる因果応報である。プロ野球界で名の名をほしいままにする野村克也でさえもタイガースでは1年で「この球団は手に負えない。もう辞めさせてくれ」とさじを投げかけ、サッチーの脱税で去るという最悪の終わり方をした。2021年に引退した鳥谷敬が方々のインタビューで「阪神の監督はできればやりたくないですね・・・・・・」と答えてしまうのも無理はない。(本文より)
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ここまで挙げられると、阪神タイガーズの“伝統芸”と言われても否定できないレベルです。
後半、藤村と川藤のやり取りが紹介されます。
<本文引用>------------
「今、タイガースが久しぶりに優勝争いをしているやろ。新聞を見れば、阪神タイガースやなくて『吉田阪神』と書いてある。なんやねんこれは。ええか。タイガースの監督は吉田や。せやけどタイガースは吉田のもんではない。タイガースがあるから吉田がおるんや。ワシらは監督やコーチに認められたくてやってきたわけやない。ファンに認められるために必死になれたんや。それが諸先輩方が作ってきたタイガースであり、虎の血なんや。これを後輩たちにつないでいけ」
川藤は、タイガースという球団はよその球団とは何かが違うとずっと感じていた。なぜタイガースにはこんなに熱狂的に応援してくれるファンがいるのか。まわりからケチやボやや嘲笑され、オフになったら主力と会社のお家騒動。球界一のお騒がせ球団といわれながら、シーズンに入ったらちっとも巨人に勝てない。そういうチームでも、阪神タイガースにはこれだけ数多くの応援してくれるファンの人がずっとついてきている。それは藤村富美男ら先達たちが、ファンの方を向いて必死にプレーしてきたこと。それはもしかしたら勝ち負け以上に大事なことかもしれん。いくら勝ってもファンの人に愛されるチームじゃなきゃアカン。ワシらは勝てばいいだけの巨人とは違うんや。優勝回数は負けとるかもしれんけどな。タイガースは愛情の深さが違う。(本文より)
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勝っても負けても熱烈なファンが雄たけびを上げる。
そんなファンは何に対して雄たけびを上げるのか?
2023年に日本一になった阪神タイガース。
2024年に指揮を執るのは前年と同じ、岡田監督。
シーズンではどんな展開をするのか?
シーズン後はどんな展開をするのか?
楽しみです。
◆頭の中でシンクロした他の完読作品
『虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督』
『ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法』
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■読んだきっかけ:HONZ
■読んで知ったこと:阪神タイガーズの“伝統芸”の原点。
■今度読みたくなった作品:『92歳、広岡達朗の正体』松永多佳倫
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虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督 (WPB eBooks) - 村瀬秀信







