『中央公論2025年9月号』

「わかりやすい政策」に潜む危険性。


2025年の自民党総裁選挙は、10月4日に行われることが決定しています。

現時点(2025/9/21時点)の候補者は小泉進次郎氏、高市早苗氏、茂木敏充氏、小林鷹之氏、林芳正氏の5名です。

物価対策は公約に掲げているものの、消費善減税については5人とも「消費税減税」を正面から打ち出していません。

いずれも社会保障財源への影響を意識し、むしろ所得税や給付金、地方交付金など他の手段で物価高に対応しようとしています。


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書名:『中央公論20259月号』

著者:中央公論編集部

出版:中央公論新社(2025.08

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本誌は中央公論新社が発行する月刊総合雑誌。

本号の特集は

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特集:戦後80年、「終戦」の真実 

特集:自分史を書く、先祖をたどる

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です。


自民党総裁選のニュースが盛んに流れています。(2025/9/21現在)

20257月の参議院選挙でも話題になった物価対策。

今回の総裁選候補者の物価対策に対するコメントには注目が集まります。


渡辺努氏(経済学者)の「消費税減税で本当に消費者は得をするのか」。

「消費税を減税したらその分物価が下がる」とは、そうは単純に行かない事例を紹介します。


<本文引用>------------

実際には、消費税減税によって商品価格がどれほど下がるかが重要である。例えば、税率が10%から7%に引き下げられたとして、価格がそのまま3%下がれば、消費者の負担は軽減される。しかし、販売側が同時に課税前価格を引き上げた場合、価格は1%しか下がらないこともあり得る。こうした価格反映の割合を「転線半」と呼び、上記の例では0・33にすぎない。さらに極端なケースでは、転嫁率がゼロ、すなわち減税による価格の変化がまったく見られない可能性もある。この場合、減税の利益を享受するのは販売側だけだ。(本文より)

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消費税減税主張者は消費税減税は海外で実施されている例を取り上げ、「なぜ日本はやらないんだ!」と主張しています。


<本文引用>------------

では、実際に日本で消費税減税を行った場合、転嫁率はどうなるのか。残念ながら、日本では消費税を引き上げた経験しかなく、データが存在しない。しかし欧州では、リーマンショックの直後や新型コロナ禍の際に、英国、ドイツ、フランスなどで消費喚起などを目的に引き下げが実施された。例えば、フィンランドでは2007年から12年まで、美容サービスに対して14%の税率引き下げが行われたが、価格は約6%しか下がらなかった。

つまり、転嫁率は0・12にとどまった。一方、12年に税率が元に戻された際には、価格は約11%も上昇し、転嫁率は0・76に達した。 このように、減税時と増税時で価格への影響は非対称であり、税率が同じ水準に戻っても、価格は引き上げ前より高くなるという現象が生じる。欧州の他の国々でも同様の傾向が確認されている。(本文より)

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2025年9月、公正取引委員会が石油販売会社8社が軽油価格でカルテル疑いで捜索をしたことが報道されました。

石油販売会社8社が東京都内の運送業者などに販売する軽油の価格を不正に引き上げるなどのカルテルを結び、独占禁止法に違反した疑いがあるとしています。

政府は近年の原油価格高騰に対応するため、燃料費高騰対策として補助金を投入していました。

その補助金が投入された市場で価格カルテルが行われていた場合、本来価格を抑えるための補助金が、企業間の不当な価格調整によって消費者や運送業者に還元されず、企業の利益に偏っていた可能性があります。

かなり悪質ですね。

公正取引委員会の捜索を受けたのは、東日本宇佐美、ENEOSウイング、エネクスフリート、新出光、太陽鉱油、キタセキ、吉田石油店、共栄石油です。

補助金制度のリスクをしっかり実現させてくれたような事件ですね。


<本文引用>------------

この非対称性は何を意味するのか。フィンランドの例で言えば、減税により一時的に消費者は得をするが、その利益は限定的であり、減税終了後には価格上昇で損を被る可能性がある。一方で、販売側は増税時により大きな利益を得ることになる。欧州の事例が示しているのは、「消費税減税=消費者の得」という単純な構図が成り立たないという事実である。減税支持派は、消費者の懐を豊かにすることを目的に掲げているが、その実現には、減税の効果が確実に消費者に届く仕組みが必要である。

過去の日本でも、1985年のブラザ合意後の円高期や80年代前半の超円高期には、輸入コストが大きく下がったにもかかわらず最終小売価格があまり下がらず、円高メリットが消費者に還元されないという事態が生じた。そうした中で政府(公取委など)は、小売価格の継続的なモニタリングを実施し、不当な価格据え置きに対しては行政指導や勧告などを行った。同様の措置を消費税減税の際にも講じるのであれば、監視コストや行政的負担は増加する。その実行には相応の準備と資源が必要となり、減税そのもののコストも高くなる。

単に「減税すれば消費者が得をする」という発想では不十分である。実際に誰がどれだけ得をするのかを見極めたうえで、制度設計と運用方針を慎重に詰める必要がある。政治には、財源論にとどまらない緻密で現実的な議論を期待したい。(本文より)

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ただし、「わかりやすい政策」という意味で、消費税減税の意見は根強いものがあります。

「わかりやすい政策」は人を惹きつけます。


中北浩爾氏(中央大学教授)が寄稿する「多党化の進展、組織政党の弱体化、ポピュリズムの台頭...... 参院選で見えた日本政治の地殻変動」。


<本文引用>------------

今回の参院選の争点設定でも、両党は受け身の対応を余儀なくされた。自民党は外交・安全保障や経済成長、立憲民主党は社会保障に強みを持つ。しかし、物価高が争点となり、追い込まれる形で立憲民主党は時限的な食料品の消費税ゼロ、自民党は子どもと住民税非課税世帯には一人4万円、その他は一人2万円の給付を打ち出した。参政党の進が伝えられると、外国人政策が争点として浮上し、石破政権は司令塔組織の設置に踏み切った。石破首相は後半戦に入って外交・安全保障政策を強調して責任政党としての立場を訴え、トランプ政権を念頭に「なめられてたまるか」とも発言したが、有権者には全く響かなかった(『日本経済新聞電子版』2025年7月3日)。

そして、参院選で自民党が議席を大きく減らし、立憲民主党も伸び悩んだ結果、両党のリーダーシップの弱体化に拍車がかかっている。(本文より)

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ただでさえ評判が悪いかった給付金。

最初は12万の現金給付を参院選公約に掲げていた自由民主党が、途中でさらに、「子どもには4万!」と言い出した時はひっくり返りそうになりました。


<本文引用>------------

多党化が進み、ポピュリズムが台頭するという不安定な政治状況が続けば、最もダメージを受けるのは財政規律である。実際、参院選のなかで消費税減税を唱える野党、とりわけ新興政党の躍進が報じられて財政規律の弛緩が危惧され、長期・超長期金利の上昇がみられた。日本国債の格下げの懸念も囁かれる。秋に臨時国会が召集されるまでに、自民党が新たな総肢を選出して強力なリーダーシップを構築できるか。また、連立の拡大に道筋をつけられるか。つまり、脆弱化した政治権力を立て直せるのか。日本政治だけでなく、日本国の行く末にも大きく関わるだけに、その成否が注目される。(本文より)

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また、この給付金に対し、その対応を行う地方自治体からの意見が出ています。


熊谷俊人氏(千葉県知事)が寄稿する「国が一元的な制度設計を 自治体を疲弊させる「現金給付」に異議あり」。


<本文引用>------------

――この6月11日、政府が進める現体の疲弊を訴えたX(旧ツイッター) の投稿が話題になりました。千葉市長時代の経験からの発言とのことですが具体的にはどのような負担が生じるのでしょうか。

制度設計にもよりますが、2020年にコロナ禍で実施された1人一律10万円を支給する特別定額給付金を例に説明します。これが最もシンブルで負担としては比較的「マシ」なのですが、それでもまず基準日時点での全対象者のデータを抽出することから始まります。

また政府が個人に給付するのは 「贈与契約」にあたるので、対象者全員に受け取りの意思確認をする必要もあります。申請書を郵送し、必要事項や受け取りの口座番号などを記載したものを返送していただかなければならないわけです(郵送申請の場合)。さらに返送された大量の申請書の確認作業と入力作業を逐一行い、それを金融機関に渡すまでが一つの大きな流れです。

それと並行して必要なのが、コールセンターの設置。多くの問い合わせがあるので、想定されるQ&Aマニュアルの作成や民間事業者への業務委託などの事務が発生します。

こうした一連の膨大な作業があるわけです。しかもこれは一律10万円給付のケースです。ここに「非課税世帯は上積み」とか、「子供1人あたりいくら」といった条件が加わると、より複雑な作業が発生します。これを、すべての市区町村がバラバラに行っているのが現状です。


――――それらの仕事は、市区町村のどの部署の方が担当されるのですか。

もちろん専業の部署はないので、各部署から知識や経験のある職員を少しずつ集めて特別部隊を作るわけです。しかし今は自治体職員の採用も難しく、むしろどんどん転職してしまう時代です。つまり、もともと人手は余っていません。その状況下でさらに通常業務から離れてもらうわけですから、現場が疲弊するのは当然ですよね。(本文より)

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地方自治体、たまったものではないですね。

さらに、財政健全化の観点からの問題点も指摘しています。


<本文引用>------------

――これだけ毎年給付金を出すと、財政への影響も懸念されます。

財政の問題は政府が判断することですが、税収の「上振れ」分を給付に回すという議論は常識的に考えておかしい。では税収が「下振れ」したら増税できるのかと。むしろ景気悪化で政府の支援が必要になったりするので、そう簡単ではないですよね。こうした単年度主義の横行や無造作なバラマキが続くと、さすがに心配になります。


――国民の側も、毎年のように給付されるのが当たり前のような感覚に陥っている気がします。

そうですね。コロナ禍以降、政府のみならず東京都など一部の自治体も給付を積極的に行うようになりました。そのため、まるで給付することが政治家の役割であり、政策であるように思われているかもしれません。しかし、それは本来の姿ではない。そもそも税金として徴収したものを給付で戻すのは非常に非効率です。(本文より)

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「わかりやすい政策」に潜む危険性。

改めて感じました。



◆頭の中でシンクロした他の完読作品

『中央公論20259月号』 

『物価とは何か』

『世界インフレの謎』 


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■読んだきっかけ:『中央公論2025年8月号』中央公論編集部 

■読んで知ったこと:「わかりやすい政策」に潜む危険性。

■今度読みたくなった作品:『中央公論202510月号』中央公論編集部

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中央公論 2025年 9月号 - 中央公論新社
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