「死の意識」が生み出すネガティブな反応とポジティブな反応。
かつて勤務していた会社でのお話。
私の所属していた部には5つの課があり、私はその中の一つの課の課長。
人事評価の時期になると、きまって、その当時の部長は私たち課長を呼び出し、評価の心をレクチャーします。
ハロー効果などを説明し、評価の公平性を説明し、最後は決まって「お前ら、分かったか!」で終わります。
で、実際の評価になると、その部長は「あいつは前にこんな事やってた!」「彼女はあの本部長が高く評価している!」など、評価する目標とはなーんも関係ないことを持ち出して次々評価を判定。
そんな部長を見ながら、冷静に人が人を評価するのって難しいなあって思いました。
――――――――――――
書名:『なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか : 人間の心の芯に巣くう虫』
著者:シェルドン・ソロモン(著)、ジェフ・グリーンバーグ(著)、トム・ピジンスキー(著)、大田直子(訳)
出版:インターシフト(2017.02)
――――――――――――
著者はそれぞれ、スキッドモア大学、アリゾナ大学、コロラド大学・コロラドスプリングス校の心理学教授で、「恐怖管理理論」提唱者です。
「恐怖管理理論」を軸に、人が保守化するメカニズムを解説します。
翻訳ものです。
原題は『THE WORM AT THE CORE On the Role of Death in Life』です。
直訳すると『核となる寄生虫 生における死の役割について』といったところでしょうか。
「恐怖管理理論」とは、人間が死の不可避性や未知への恐怖にどのように心理的に対処するかを説明する理論です。
死を意識する結果、
・ 自分の自尊心が高まり、死への不安を軽減させる。
・ 自分の世界観を脅かす存在(異文化、他宗教、異なる価値観の人)に対しては、攻撃的・排他的になる。
としています。
倫理的に高いレベルが求められ、法に基づく、中立な立場にある判事。
判事を使った実験が紹介されています。
<本文引用>------------
判事というのは、事実にもとづいて事件を評価する、きわめて理性的な専門家のはずだ。そして実際に被験者の判事たちは、死についての質問に答えることが自分の判決に影響する可能性はありえないと主張していた。それならどうして、ほんの少し死について思い起こしたことで、彼らの決断がこれほど極端に――しかも本人が知らないうちに――変わることがありえたのか?
われわれはこの実験を考案したとき、一般的に判事というのは、そもそも善悪について確固たる考えをもっている人たちだと想像し、キャロル・アン・デニスの行為は彼らの倫理的感性を害すると考えた。実験結果からわかるのは、自分の死すべき運命について考えた判事は、自分たちの文化に規定されたとおりの正しいことをしようという反応を示したことである。その結果、彼らは死について思い起こさせられなかった同僚たちよりも、精力的に法律を守った。売春婦と疑われる人物に対して極端に高額の保釈金を決定することによって、彼女が単なる軽い叱責だけでなく、倫理的犯罪に「ふさわしい」間も受けるために、確実に歳判に姿を現すようにしたのだ。(本文より)
------------------------
法律を守らない人、社会秩序を乱そうとする人に対するネガティブな反応。
その一方で、法律を守る人、社会秩序を維持しようとするポジティブな反応を見せます。
<本文引用>------------
死を思い起こさせることは、私たちの価値観にかなう生活をしない人たちに対する、よりネガティブな反応を起こすだけではない。その価値観を守る人たちに対する、よりポジティブな反応も生じさせる。ある研究では、危険な犯罪者を警察に通報した人に対して被験者が推奨する金銭的報酬が、死を思い起こさせることで三倍になっている。そして死を思い起こさせることの影響がおよぶのは、不道徳だと非難される人や、高潔さを評価される人に限られない。信念の正しさや文化の善良さに対する自信を強めたいという、一般的な欲求も高める。そのため、人は死を思い起こさせられたあと、自分の大切な信念を強める人やものに対して寛大に反応し、その信念に疑問を投げかける人やものを拒否する。(本文より)
------------------------
以前読んだ『信頼はなぜ裏切られるのか ―無意識の科学が明かす真実』で知った「オキシトシン」の光と影。
「自身の死」を意識させた後に「オキシトシン」を振りかけたら、もっと顕著な反応が出そうですね。
この「死の意識」。
実は投票行動にも影響を表した実験も紹介しています。
<本文引用>------------
カリスマ指導者は死の不安が生じているときのほうが魅力的であることを実験で証明するために、われわれは被験者に、死を思い起こさせるか、嫌悪コントロールの話をしたあと、架空の知事選の候補者三人による選挙運動中の発言を読んでもらった。一人の候補者は職務指向で、仕事をこなす能力を強調している。「私はやると決めた目標はすべて達成できます。何事もあいまいにしないよう、やる必要のあることの細かい青写真を慎重に描きます」。二番目の候補者は人間関係指向で、共同責任、人間関係、そして協力の重要性を強調する。「私は全市民に、自分の状態を向上させるために積極的に役割を果たすよう働きかけます。一人ひとりが変化を起こせることがわかっています」。三人目はカリスマ性があり、大胆で、自信があり、集団の偉大さを強調する。「あなたはふつうの市民ではなく、特別な州と特別な国の一部です」。次に被験者は自分が投票する候補者を選ぶ。結果は驚異的だった。対照条件では、九五人の被験者のうち、カリスマ候補者に投票したのはたった四人で、残りの票は職務指向と人間関係指向の候補者で均等に割れた。ところが、死を思い起こさせられた場合、カリスマ候補者の票はほぼ八倍だった。死すべき運命の暗示がカリスマ指導者の魅力を増幅させている(そして次章で見るように、これは実際の大統領選の実在の候補者についても言える)。(本文より)
------------------------
ヒトラー政権を誕生させたいのはドイツ国民の支持。
当時のドイツ国民の根底にあったのはすさまじいインフレによる困窮。
これを考えると、旧東ヨーロッパを中心で、いわゆる“極右”と呼ばれるような、極端な保守主義が支持を集めているのもうなずけます。
困窮が生み出す「死の意識」って、「ポピュリスム」と相性がよさそうです。
ヒトラー政権が誕生したドイツの投票結果。
この結果が、あの第二次世界大戦につながったと考えると、経済政策や社会保障政策って改めて重要なんだと思いました、
◆頭の中でシンクロした他の完読作品
『なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか : 人間の心の芯に巣くう虫』
――――――――――――
■読んだきっかけ:図書館
■読んで知ったこと:「死の意識」が生み出すネガティブな反応とポジティブな反応。
■今度読みたくなった作品:『死の拒絶』アーネスト・ベッカー
――――――――――――

なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか : 人間の心の芯に巣くう虫 - シェルドン・ソロモン, ジェフ・グリーンバーグ, トム・ピジンスキー, 大田直子






この記事へのコメント