武力を保持し見せつけることで実現できる「戦わずして勝つ」。
本のジャンルの一つ「ブックガイド」というものがあります。
私はこのジャンル、結構好きです。
読んでいると「知らなかった本」を見つけるだけでなく、「知っている本」を見つけることがあります。
“浅読み多読”を信条としている私。
「知っている本」に関するブックガイドをよく読むと、私が見落としているポイントを見つけることがあります。
改めて、その本を読み直したくなる気持ちにさせてくれます。
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書名:『国際安全保障がわかるブックガイド』
著者:赤木完爾(編)、国際安全保障学会(編)
出版:慶應義塾大学出版会(2024.02)
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著者は法学博士で慶應義塾大学名誉教授(赤木完爾氏)、安全保障や軍事防衛問題に関する理論的実証的な研究を行う団体(国際安全保障学会)。
本作は日本語で読むことのできる古今東西の国際政治に関する書籍を112人の国際政治学者がポイントとともに紹介しています。
私が読んだことのある本も何冊が出てきました。
しかし、そこは国際学者の皆さんの紹介。
私がすっかり読み飛ばしていた内容、私には思いもつかない考察が紹介されていて、読み返す楽しみが増えました。
その一冊が『新訂 孫子』。
門間理良氏(拓殖大学海外事情研究所教授)が紹介します。
これを現代中国の台湾統一と絡めて解説します。
<本文引用>------------
また、台湾問題を考察する際に「孫子」の数々の指摘は傾聴に値する。習近平は自分の代で台湾問題を解決し、鄧小平を凌駕して毛沢東に比肩する地位に上ろうとしていると見られている。中国の台湾問題解決の方針は米中国交正常化以後「平和統一」が原則だが、台湾に「戦って勝てる」解放軍を見せつけて民に無力感を与えて「平和統一」交渉につかせること、つまり「戦わずして勝つ」を狙っていると思われる。これは『孫子』の「戦わずして人の兵をするは善なる者なり」(謀攻篇)に通じる。その一方で、中国は台湾に対する武力行も放棄していない。『孫子』は実力や士気の高さを偽装すること、敵陣営の分裂を図ること、敵の意思をコントロールすることの重要性を挙げる。これは認知戦に通じる考え方である。遠征軍への補給、彼我の戦争遂行能力に関する冷徹な分析、偵察等の敵情分析の重要性、敵国の外交関係毀損、戦争が国家財政にかける負担といった指摘も、現代の戦争においては重要対処事項である。(本文より)
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武力を放棄しない姿勢を持ちつつ、「戦わずして勝つ」を狙う中国。
また、読み直したくなりました。
倉科一希氏(同志社大学グローバル地域文化学部教授)が紹介する岩間陽子氏の『ドイツ再軍備』。
<本文引用>------------
背景・概要
第二次世界大戦終結からドイツ連邦共和国(西ドイツ)の再軍備と北大西洋条約機構(NATO)加盟に至る10年間は、現在まで続くヨーロッパ国際関係の枠組みが形成された時期であった。その過程では、各国の思惑が交錯した。
当時の西側諸国にとって、西ドイツは、ソ連に対抗するための潜在的パートナーであると同時に、二つの世界大戦を戦った仇敵であった。したがって西ドイツの再軍備は、西ドイツの潜在的パワーを西側の防衛に活用しつつ、西ドイツの将来への不安を惹起しない形で進める必要があった。この相矛盾する条件を満たす枠組みの検索は、西側陣営内の足並みがそろわずにし、最終的に西ドイツの再軍備が実現したのは1965年のことであった。
周辺諸国と同様に、西ドイツ国内にも再軍備への懸念があった。再軍備がドイツ再統一の妨げとなり、さらに西ドイツの民主化に逆行しかねないという懸念あった。建国間もない西ドイツの政治制度が十分に確立していなかったこともり、論争はしばしば先鋭化した。しかし最終的には、大戦末期の経験からソ連への脅威認識が強い世論は、西側諸国との同盟および再軍備を受け入れるのである。(本文より)
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ある意味、第二次世界大戦のきっかけともなった国、ドイツ。
それが、どのようなプロセスを経て、NATOの中心国になったのか気になります。
「月曜ロードショー」や「ゴールデン洋画劇場」で、シーン・コネリーの007シリーズを夢中になって観ていた私。
「スパイ」と聞くと、わくわくするような少年でした。
そんな私が気になったニュースが「IBM産業スパイ事件」でした。
もっとも、「スパイ」に反応したものの、事件の内容には全く関心が向かなかった当時の私でした。
村山裕三氏(同志社大学名誉教授)が紹介する伊集院丈氏の『雲を掴め 富士通・IBM秘書交渉』。
<本文引用>------------
本書は、個人などへの影響を配慮して小説仕立てになっており、登場人物は多くが仮名になっているが、「記述されている個々の出来事やIBM‐富士通ソフトウエア紛争の展開も(表現上の創作はあるが)、日時・場所を含めて、ほとんどが事実に沿って描かれている(解説より)」。通常はうかがい知ることができない、最先端技術をめぐる競争と交渉の実態を臨場感をもって知ることができるのが、本書の最大の魅力である。
一方、最先端技術の国外流出に関する米国の厳しい対応は、日本にとっての大きな教訓となる。このようなケースに対しておとり捜査も辞さないFBIの姿勢や、富士通の米国駐在員事務所と日本人幹部の住宅の主要な場所にはすべて盗聴器が仕掛けられていたといった記述には背筋が寒くなる。また、ターゲットを定め、官民を挙げて日本企業を追い込んでゆく様子は、理念をベースにして不正を容赦しない米国という国の特徴を把握するうえでも重要である。
このような厳しい状況に立ち向かった富士通幹部の交渉姿勢からも多くを学べる。対応を誤ると会社が潰されてしまうという強い危機感を背景に、富士通はIBMと対峙し、厳しい情勢にもかかわらず常に戦略的な思考をもって交渉にあたった。また、IBMの顧客プログラムがそのまま動くコンピュータを富士通が提供し続けなければならないという、互換機メーカーの顧客に対する使命感の強さも特筆に値する。そして、この事件に関わった人々が、伊集院本人も含めてきわめて個性的であり、ルール破りも辞さない豪傑のような人が多かったことも印象的である。(本文より)
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これは読みたくなってしまいますね。
昨今ニュースで目にする耳にすることが増えた「国際安全保障」。
これを知るためにどんあ本を読んだらいいかが、わかり易い解説で紹介されていて、次なる読書欲を掻き立ててくれる一冊でした。
◆頭の中でシンクロした他の完読作品
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■読んだきっかけ:図書館
■読んで知ったこと:武力を保持し見せつけることで実現できる「戦わずして勝つ」。
■今度読みたくなった作品:『雲を掴め: 富士通・IBM秘密交渉』伊集院丈
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国際安全保障がわかるブックガイド - 赤木完爾, 国際安全保障学会






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