「教育虐待」という虐待。
私は静岡県静岡市の出身です。
市内には県内で1、2位を争う進学校、静岡県立静岡高校、通称“静高(しずこう)”があります。
私の二つ上の兄は、小学校の時からサッカーも勉強の成績も優秀で、静高に入りました。
でも、父も母も「勉強しろ!」とか言ったところを見たことがありません。
そんな兄の小学校の文集を見ると、私も知っている兄の同級生が「僕は静高に行きます!」と書いているのを見つけました。
小学生の段階で静高進学を宣言する小学生。
家ではよっぽど親から「静高は良い高校!」とか「お前は静高に行きなさい!」と言われていたんだろうなって思いました。
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書名:『母という呪縛 娘という牢獄』
著者:齊藤彩
出版:講談社(2022.12)
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著者は元共同通信社の記者で、本作がはじめての著作。
「滋賀医科大学生母親殺害事件」。
2018年1月9日の夜、滋賀医科大学に通う31歳の4年生の女子大学生が58歳の母親を殺害した事件です。
私は事件発生時のニュース報道を見た記憶がありません。
後になってWikipediaで調べてみたのですが、どうも背景には「教育虐待」というものがあったとされています。
犯人の女子大生は大学4年生で31歳。
大学に現役で合格すると大学1年生は19歳、大学4年生は22歳。
つまり、この犯人は大学に9浪していた計算になります。
著者は収監中の犯人との対話をもとに、「教育虐待」の実態と異常性を明らかにします。
殺害された母親は実に教育熱心だったようです。
<本文引用>------------
とりわけ要求が厳しかったのが算数だ。母・妙子の得意科目ということもあり、何種類もの問題集を買い与え、毎晩のように問題を解かせた。母はあかりにつきっきりで、まるで家庭教師のように解き方を教えた。
旅人算、つるかめ算、ニュートン算……あかりは「小学校の算数は難しい」と振り返っている。たしかに、方程式を使わず、問題ごとに適切な解法をあてはめなければいけない小学校の算数には、パズルを解くような独特の難しさがある。あかりが同じ問題を何度も間違えたり、解けなかったりするとますます厳しく叱責された。
「どうして間違えるの!?」
「なんでこんな簡単な問題が解けないの!」
「お母さんが何回も教えてあげたでしょ!」
「本当にあかちゃんはバカだね!」
「他の賢い子はみんなできてるよ!」
勉強時間は非常に長く、平日は二~三時間、休日になると四~六時間も机に向かっていた。勉強の進捗状況をチェックするため、小学校高学年あたりから「日報」を付けるようにA4判コピー用紙の表は母がパソコンで自作し、「あかちゃん勉強日報」とタイトルをつけた。(本文より)
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自ら勉強を教える母親。
東大とか京大でも出ているのかというと、面白いことにそうではないようです。
<本文引用>------------
妙子は、岩国工業高校を卒業したあと、母親と義父を頼ってアメリカへ渡っている。アメリカでの生活ぶりははっきりしないが、結局妙子はアメリカに定着することなく、数年で帰国した。その後は滋賀・大津に住んでいた伯母のもとで生活している。帰国後、伯母の勧めで見合い結婚した。二人の間に生まれたのがあかりである。(本文より)
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正直、自分自身を振り返り、この母親、どれだけ、自分に自信をもっていたんでしょうか。
自ら勉強を教える一方、周辺の公立学校を露骨に馬鹿にします。
<本文引用>------------
中学進学が近くなると、母・妙子のプライドがもっとも露骨な形で発揮されるようになった。妙子が以前から「パカ学校」と蔑んでいた公立中学への進学を徹底して忌避し、国立私立の名門中学への進学を望むようになったのである。国立滋賀大学教育学部附属中学校に入り、県立の進学校に進むのがエリートコースであると、繰り返し口にした。
あかり自身も、母の「選民思想」の影響を強く受けていた。
「近所の同級生と一緒にヘルメットをかぶり、ジャージを着て自転車に乗って地元の公立中学に通うのはみっともなくて嫌だな」――それが本音だったという。(本文より)
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この母親の異常性は様々な部分で表面化します。
<本文引用>-----
「私はあんたを生んだときから、医者にすると決めていたのよ。逆らうんなら慰謝料といままでの学費一〇〇〇万円を払ってね」
母からは、そう通告された。(本文より)
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子どもを持つことを「金がかかる」とか「コスパが悪い」みたいに言う人がいます。
私には子どもがおりません。
それでも、子どもを持つことで自分に起きることが「コスト」だけとは思えません。
まあ、子どもを持つことを「コスト」でしか考えられない人は親にならないほうがいいとも言えますが・・・。
本作では、親子のLINEのやり取りも紹介されています。
<本文引用>------------
2017/12/24――大学退学を強要
母 大学は行かせた意味がないから退学して、一から自分の好き勝手に生きればいい。十分に学生気分を楽しんだはず。親不孝の娘はどこへでも行くがいい。
娘 退学はしません。
母 仕事を言い訳に母を放置していたら、母の怒りは再燃するよ。今の不幸な状況の中、他に楽しい事なんて考えられる訳がないからね。
いや、あんたに関わった母の人生、殆どが裏切りと失望と屈辱にまみれた時間の無駄遣いで「不幸」そのものだった。還暦前の今も間違いなく不幸だから!
娘 私に関わった母の人生、殆どが裏切りと失望と屈辱にまみれた時間の無駄遣いで「不幸」そのもので、今もなお苦しめてしまっていることを、申し訳なく思っています。(本文より)
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娘は親に敬語で話し、それを母親は突き放す。
正直、異常なやり取りです。
私が最も憤ったのは、娘は親に隠れた買ったスマホを見つけ、それを母親が壊すという出来事。
<本文引用>------------
夜半、母は怒声をあげてあかりのスマホを取り上げると庭に飛び出した。コンクリートブロックを手に、地面に置いたスマートフォンめがけて勢いよく叩きつけ、ガラスの破片が粉になって舞った。
母はあかりを庭へと引っ張り出し、そこで土下座するよう指示した。
底冷えする寒さのなか、暗闇で部屋着に靴下のまま、地面に手をつき、額をこすりつけるあかり。その姿を、母は自分のスマホで撮影した。そのときの写真四枚が証拠として裁判に提出されている。
母のスマホに残されたデータから、撮影された時間は深夜三時二五分から二六分。正座をしている写真と、両手、頭を地面につけたものが各二枚で、合計二度の土下座を強いられ、撮影された。(本文より)
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子どもに土下座を強要し、土下座している娘の写真を撮る。
正直、この過程では父親が早々に家を出ており、父親の存在が希薄です。
<本文引用>------------
両親が必ずしもしっくりいっていないことは、あかりも感じていた。記憶にあるのは、近所にオープンした大衆中華料理店に行ったときのことだ。
母は、ささいなことから父を激しく罵(ののし)った。
私と母はラーメンセットを頼んだが、父は肉野菜炒め、餃子、炒飯をそれぞれ単品で頼んだ。注文を取りに来た店員が厨房へ向かうと、母が小声で詰(なじ)る。
「自分、なんでわざわざ餃子と炒飯を単品で頼むんかね。もったいないじゃん」
「どっちも好きなんで」
「炒飯セットAにすればいいじゃん」
「餃子が三つしかないじゃん」
「三つも六つも変わらないじゃん。セットのほうが安いのに。バカじゃないの」
確かに単品で餃子六つと炒飯を頼むより、炒飯セットA(炒飯と餃子三つ)を頼んだほうが割安である。注文が運ばれてくる。
「いただきまーす」
気を取り直して食べ始める。
「……自分さぁ、クチャクチャうるさいね」
父の咀嚼(そしゃく)音に母が苛立つ。
私と父は黙々と食べ進めてゆく。
父と母は、互いに「自分」と呼び合っていた。あかりは幼な心に違和感を覚えていたが、それが日常だったので、いつしか気に留めなくなっていた。
父と母はしばしば、些細なことで言い争いをした。言い争うというより、母が一方的に父を罵るといったほうが近いかもしれない。(本文より)
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この母親、自分の夫ともまともにコミュニケーションをとっていなかったようですね。
母親が京大医学部合格に固執し、周囲に嘘をついてまでも、娘を浪人させ続けます。
正直、この母親、いったいどういう頭の構造をしているのか、理解に苦しみます。
相手は1~2歳の非力な児童を相手にしているならまだしも、相手は30歳を超えたいい大人。
力だって下手したら娘のほうと逆転してもいい頃。
犯行当日、母親は娘にマッサージをさせ、そのまま眠りについたようです。
そうして眠りについたところ首を包丁で切りつけられて殺害されます。
私は死刑制度には賛成で、刑罰の厳罰化にも賛成の立場です。
そんな私でも、まったく、被害者に同情することはできませんでした。
そして、殺人犯である娘のほうには、一日も早い社会復帰を望む気持ちでいっぱいでした。
PS
冒頭で紹介した「僕は静高に行きます!」と高らかに宣言した小学生のその後。
その子どもの父親はサッカーの父兄の中でも、威張るというか、見栄を張るというか、いい恰好したがるというか、まあ、そんな人でした。
それも、小学生の私でもわかるレベルで。
その子どもは、静岡市内の市立高校に進学し、高校を卒業して、静岡市内の会社に就職したそうです。
その親は、私の親に「子どもが出て行って、親の面倒を見なくなるのは困るので、こういう風に育てたんだ」と言ったそうです。
私の母の二人の子どものうち、兄は静高から千葉大学に行き現在は名古屋で勤務、私は中央大学に行き現在は都内に勤務。
父親はすでに他界しており、実家は高齢者の母親一人暮らしの家です。
この父親は私の母に一矢報いたと思っているのでしょうか。
◆頭の中でシンクロした他の完読作品
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■読んだきっかけ:講談社現代ビジネスhttps://gendai.media/
■読んで知ったこと:「教育虐待」という虐待。
■今度読みたくなった作品:『「毒親」の正体 ――精神科医の診察室から』水島広子
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