『しゃぼん玉』

2度も号泣させられた本。

本を読んで泣く。
子どものことは考えられなかったのですが、年齢を重ねるたびに、“ホロリ”させられることが多くなりました。
「ホロリ本」、私は勝手に命名しています。
中には“ホロリ”なんてレベルでは済まされない「号泣本」というものもあります。(もちろんこちらも私な命名です)
私にとっての「号泣本」に新たな一冊が加わりました。

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書名:『しゃぼん玉』
著者:乃南アサ
出版:朝日新聞社(2004.11)
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著者は心理描写を盛り込んだサスペンスを得意とする人気女流作家。
“救いようのない卑劣”な主人公の青年が、ふときっかけで出会ったもうひとりの主人公の老婆やその周囲の人たちとの交流を通じ、変化していく流れを描いています。


以前読んだ『犯意 ――その罪の読み取り方』でも描かれていたように、犯罪者の心理、それも、あまりに身勝手な心理が、本作でも描かれています。

<本文引用>------------
大体こんな地方都市にいて、真夜中に一人で歩いて帰ろうという、その考えが間違っている。都会とは違って、街灯だってほとんど立っていないような道を、若い女がよくも一人で歩けたものだ。だから、こんな目に遭わなければならない。せめてタクシーを使うなり、自転車に乗るなり、方法を考えれば良かったのに。
黒々と流れる川と影にしか見えない町並みを眺めながら、翔人は煙草を一本吸った。吐き出した煙が、冷たい風に流されていく。
――一万円ちょっとじゃあ、なあ。(本文より)
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実際、身近に犯罪者がいないため、犯罪者の心理というものはよくわかりません。
でも、犯罪というのは、どう考えても割の合わない行為。
「コンビニ強盗して数万円得て逮捕に怯えるくらいなら、バイトして数万円稼いだほうがいいと思うのに」というのは、犯罪者でない人の考えのようです。

<本文引用>------------
おふくろはいつだって、指を折りながら親父の両親の悪口を言った。その欠点は、いくつ数え上げてもきりがない様子だった。そして、怒りに燃えた眼差しで、翔人や弟のことも睨みつけたものだ。いい? 要するに、あんたたちには、そういう血が流れてるってことなんだからね。よおっく、覚えておくのよ。それが、あんたたちの父親の、伊豆見家の血筋なんだから。もう、最低の血筋。
そういえば一度、翔人は尋ねたことがある。まだガキの頃、小学校の低学年くらいだったかも知れない。ねえ、お母さん、ほとんど会ったこともない人の悪口を、どうしてそんなにいっぱい言い続けられるの。
あの時の、おふくろの逆上ぶりは大変なものだった。ハンパではなかった。生意気なことを言ってんじゃないの、と、おふくろは翔人を殴った。何が違っていたのか、それまでの怒り方とは比較にならなかった。翔人は恐怖に縮み上がった。だからこそ、強烈に覚えているのだ。(本文より)
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青年の家庭環境、かなり問題がありそうです。
青年は一人でしょーもない犯罪を繰り返し、老婆の住む宮崎県の山深い村で、田舎にやってきます。


以前、アルバイトをしていた職場に、不平不満が服を着て歩いているような人(仮名Aさん)がいました。
彼女は、新しいバイトが入ると、そそそっと、、近づき、職場の不平不満を吹き込みます。
通常は、「先輩~、Aさんがヘンなこと言ってきて困るんで~す・・・」って感じになるのですが、まれに、Aさんとうまく(悪い意味で)化学反応してしまう人もいます。
そうなると、もうAさん、元気いっぱい!
会社の合併で経営者が「1たす1は2ではなく、3や4にします!」なんて言いますが、まさに、2人そろって3倍や4倍の不平不満をぶちまけます。

本作でも、青年は、自分と同じような“救いようのない卑劣”な人間に遭遇します。
そこで、彼はどんな行動をとるか?

本作の面白さの一つです。


冒頭でも書いたように、本作には号泣させられました。
しかも、2か所で。

まずは、青年と老婆の別れを予感させるシーン。

<本文引用>------------
「あのさ」
「なん」
「まだ当分――死なねえ?」
婆さんが、初めてこちらを見た。
翔人は、その視線を受け止めることが出来なかった。どうしても、目線が下がってしまう。それでも、言わなければならなかった。
「――死なねえで、いてくれねえかな。あの――俺が、戻ってくるまで」
「行くとかい」
飯のかたまりを飲んだのか、何を飲んだのか分からなかった。とにかく熱くて大きなかたまりを、ぐっと飲み下し、翔人は一つ、大きく深呼吸をした。
「明日」
(本文より)
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標準語と放言のズレがさらに盛り上げます。
そして、最後のシーン。

<本文引用>------------
「ちょうどよかった。わしも今、往ぬるとこばい」
そして、シゲ爺は翔人の背中をどん、と叩いた。薄闇の中で、シゲ爺の顔が笑っていた。
「おスマじょうも喜ぶじゃろう。喜びすぎて、くたばるかも知れん。何しろもう一回おめえの面ぁ見るまでは絶対に死なんぞって、頑張っちよるとじゃけぇ、なあ」
言いながら、シゲ爺の手が何度も何度も、翔人の背を撫でる。くまさんが半ば諦めたような笑顔で「じゃ、明日頼むわ」と言った。
「分かった。明日、ちゃんと手伝うから」
「待っとるよ」
(本文より)
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まずい、書いていて泣きたくなりました…。

本作のカバーには、こんな紹介文が書かれていました。
「翔人の自堕落で猛り狂った心を村人たちは優しく包み込むのだが……。涙なくしては読めない心理サスペンス感動の傑作。」
最初、通勤で読んでいたのですが、読んでいて、明らかに「こりゃ、泣かされるな」と思いました。

そのため、途中で読むのをやめて、別な本に切り替えました。
そして、自宅で読み直し、思いっきり号泣させてもらいました。


本作を読んだきっかけは、女優市原悦子さんの訃報。
大好きな女優の一人の訃報です。
心よりご冥福をお祈りします。

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■読んだきっかけ:女優市原悦子さんの訃報。
■読んで知ったこと:2度も号泣させられた本。
■今度読みたくなった作品:『六月の雪』乃南アサ
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498 しゃぼん玉.jpg









『七つの会議』

同じ作品中で、都度、目線を変えた「三人称視点」の小説。

1998年、銀行員時代のお話。
上司が「お前、本好きだろ?これ、もう読んだから、お前にやる」
そういって渡されたハードカバーの本が『果つる底なき』でした。
江戸川乱歩賞受賞作だそうで、ジャンルはミルテリー。
「どんなもんかなあ」と思いながら読み始めたら、なんと主人公は銀行員。
そんな親近感もあってあっという間に読み終えてしまいました。
でも、読み終わってから、「こんなカッコよく立ち振る舞える銀行員って、いるのかな?」なんて思いました。

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書名:『七つの会議』
著者:池井戸潤
出版:日本経済新聞出版社(2012.11)
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著者は三菱銀行(当時)出身の小説家で、人気作品詳細は「半沢直樹シリーズ」「下町ロケット」の著者。
大手電機メーカー「ソニック」の系列子会社「東京建電」を舞台に、ある登場人物を軸に様々な登場人物を錯綜させ、彼ら彼女らの生活と所属する企業活動を描きます。


本作は8つの章で構成されています。

<本文引用>------------
第一話 居眠り八角
第二話 ねじ六奮戦記
第三話 コトブキ退社
第四話 経理屋稼業
第五話 社内政治家
第六話 偽ライオン
第七話 御前会議
第八話 最終議案
(本文より)
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タイトル通り、「7つの会議を経て、1つの結論にいたる。」そんな構成です。

小説には「一人称視点」と「三人称視点」があります。
本作は「三人称視点」で、各章で焦点をあてる人物を変えています。

そこでは、現在のサラリーマンになるのエピソードを上手に織り交ぜます。
そのため、読者はその人物が「なんでそのような行動をとるのか?」「なんでそのような考え方をするか?」がすっと納得できるような仕掛けも施されています。

<本文引用>------------
「本気でいってるのか、お前」
八角の双眸が燃えている。「当たり前じゃないですか」
ここぞとばかり、新田は突き放すようにいった、言い放った瞬間、八角を、いや営業部全体を敵に回したかのような気がして、妙な高揚感に包まれる。
コスト、接待交際費――経理屋の領分から会社の暗部に鋭く切り込んでいく自分に少し酔っていたかも知れない。
「オレは徹底的にやりますから」そして新田は宣言した。「つまらん隠し立てをして困るのは、そっちのほうですよ」
「勝手にしろや」
吐き捨て、八角はさっさとブースを出て行く。それで面談は終わりだった。開いたままの扉から誰か営業マンが帰ってきたらしい気配がして、新田は席を立った。
舐めた八角の態度に、腹が立ってきた。子供時分から、大事に育てられてきた男のプライドは、いま深く傷つき、戦闘モードに切り替わる。
「見てろ、八角。お前らなんか、ぶっつぶしてやる」
経理課に戻りながら、新田はひとりごちた。
(本文「第四話 経理屋稼業」より)
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他人に怒られると怒られたことを反省するのではなく、戦闘モードに入り、さらに深みにはまる登場人物の一人です。
また、「三人称視点」といっても、完全な第三者の立場で登場人物を描くのではなく、焦点をあて登場人物の視点で描きます。

<本文引用>------------
坂戸は、凛とした声でいうと、自信に満ちた表情で会議テーブルを囲んでいる面々を見回した。
名だたる大手企業を顧客に擁し、東京建電の業績を牽引する稼ぎ頭となっているのが坂戸の率いる営業一課であった。年業績不振の二課と比較し、社内で“花の一課、地獄の二課”れる所以である。扱う商品が違うから仕方がないが、社内で一課がスマートなホールセールなら、原島が率いる二課は、さしずめドブ板営業といったところだろう。
坂戸は、堅調そのものの売上実績を淡々と報告していく。聞いていると嫉妬したくなるほどの成果だが、坂戸は人のいい男で、こういうやり手にしては珍しく、社内の誰からも好かれていた。
(本文「第一話 居眠り八角」より)
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「第一話 居眠り八角」では、登場人物の一人である坂戸は「仕事ができる好青年」という印象を読者に与えます。
一方、「第二話 ねじ六奮戦記」では坂戸はこんな風に描かれています。

<本文引用>------------
坂戸が東京建電の営業一課長になって新任挨拶の名刺を持って挨拶に来たのが二年前だ。だが、最年少課長という触れ込みと、実際爽やかな見てくれとは裏腹に、坂戸のビジネスは強引そのものだった。たしかに、やり手には違いない。だがその業績を支えているのは、東京建電の利益を確保するための徹底的な下請け叩きだ。坂戸のやり方には、温情の欠片(かけら)もなかった。
「いい目を見るのはいつも東京建電だけや。うちのコストはとことん叩かれて、なけなしの利益までむしり取られてしまう。こんなん、正しいビジネスの姿やない。間違ってる」
(本文「第二話 ねじ六奮戦記」より)
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なんか、坂戸、やな奴ですね。


会社を動かすためには「お金(売上)」が必要。
それを担う「営業部門」は絶対に必要。
でも、「営業部門」だけの論理を優先すると会社はおかしな方向に向かいそうです。
かといって、経理や法務など「間接部門」が変に力をもつと、今度は縮小均衡に向かってしまいます。
つくづく、会社って「バランス」が必要なんだと思いました。


本作、サラリーマンを一定期間過ごした中間管理職やその手前の人におススメです。
きっと登場人物の誰かに、同僚や上司、または自分を重ね合わせられそうな人が見つかりそうです。


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■読んだきっかけ:書店店頭
■読んで知ったこと:同じ作品中で、都度、目線を変えた「三人称視点」の小説。
■今度読みたくなった作品:『空飛ぶタイヤ』池井戸潤
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『メモの魔力 The Magic of Memos』

モデレーション。

以前の会社でのお話。
隣の部署に、会議に参加しては一心不乱にメモを取っているメンバーがいました。
会議に出てはメモ、会議に出てはメモの繰り返し。
どうも、議事録を作る役割を与えられていたようです。
しかし、本部だったので、彼がメモを議事録に書き起こす前に次の会議に出席。
やがて、彼を見なくなりました。
その部署の人に聞いたら、「この部署があいません」といって異動希望を出し、そのまま出社していないということでした。

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書名:『メモの魔力 The Magic of Memos』
著者:前田裕二
出版:幻冬舎(2018.12)
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PCからスマホやPCからライブ配信および視聴を行えるストリーミングサービス「SHOWROOM」を提供する会社の社長。
著者が実践している「メモ」、この「メモ」の効果や自身が実践している「メモのやり方」を公開しています。


著者は「メモを取る」ことの効果をこのようにまとめています。

<本文引用>------------
①知的生産性が増す。
②情報獲得の伝導率が増す。
③傾聴能力が増す。
④構造化能力が増す。
⑤言語化能力が増す。
(本文より)
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ここで私が注目したのは「③傾聴能力が増す。」です。
話し手の相手の目を見て、「うんうん」と頷きながらメモを取ることを言っているのか?

そうではありません。

<本文引用>------------
そして、相手から一つでも多くの有益な情報を引き出すための③傾聴能力、コミュニケーションスキルの向上にもつながります。(本文より)
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著者は時には「こういうことですか?」なんてかんじで自分のメモを相手に見せることを勧めています。
しっかり描いた手書きメモを見せられたら、相手はどう思うか?
まして、そこでまとめられたポイントが自分のポイントを合致していたら?
かりに間違っていたとしても、そのメモを使って間違いを指摘することができます。

少なくとも、自分の話をしっかりメモする人に悪い印象を持つ人はいないと思います。
逆にボイスレコーダーを見せられて、「はい、あなたの発言は正確に100%記録させていただきました」なんて言ったりしたら、例え正確な記録であって好感度は間違いなく低くなるでしょう。
著者は「メモ」は「メモを取る」だけではダメと言っています。

<本文引用>------------
メモの本質は「振り返り」にあります。振り返ったときに、そこから抽出できる学びの要素が実は信じられないほどたくさんある。「ファクト」を「抽象化」して、それをどういう風に自分に「転用」してアクションするのか?そこまで導き出して初めて。メモとしての意味が出てくるのです。(本文より)
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「振り返り」が必要なんですね。
そういえば以前読んだ『米陸軍諜報指導官に質問されたら あなたは何も隠せない』でも、「メモをとること」「それを振り返ること」の重要性については、こんな風に書かれていました。

<本文引用>------------
インターネットで「聴く、メモを取る」を検索すると、大学のウェブサイトが大量に見つかる。どれも、この二つの技術が学習の場で成果を上げるために重要だと述べるものだ。たとえば、プリンストン大学は次のように学生に教えている。
「講義から最大限の学習効果を上げるには、3つの簡単な手順を守ること。(1)講義を積極的に聴く、(2)わかりやすく効果的なノートを作る、(3)24時間以内にノートを再読する」。
(『米陸軍諜報指導官に質問されたら あなたは何も隠せない』本文より)
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生活していれば「気づき」がある。

<本文引用>------------
このように、「世の中でうまくいっているもの」や「自分が素直にいいと感じるもの」を見たときに、素通りせずに、キャッチして抽象化してみてください。「なぜかわかんないけど、このお店すごく居心地良かったな」という感想で大体終わるわけですが、その本質的要素をいくつか書き出して、抽象化しておく。すると、例えば今度は、居心地の良い別のコミュニティを自分が作る際にうまく応用できるのです。本質さえ正しければ、そこがリアルでも、ネットでも、関係なく応用できます。仮に何を対象にしていたとしても、「本質を見る」という抽象化思考さえできれば、目指す目標を達成する能力が著しく向上するでしょう。(本文より)
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気づきがあったら、メモを取る。
取ったメモを振り返る。
しかし、著者はもっと大事な前提を読者に伝えています。

<本文引用>------------
仮に、どれだけ海外に行こうが、宇宙に行こうが、解きたくてたまらない具体的な課題が自分の中にないと、特に抽象化するモチベーションはあまり湧かないでしょう。そういった意味で、この、「解くべき課題の明確化」は、抽象化の前段階において、ビジネスパーソンがまず向き合わねばならない問題かもしれません。(本文より)
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「課題」を持っていないとダメなんですね。
そして、「課題」は「問題」から産まれます。

「問題」は、現状とあるべき姿の「ギャップ」を認識している必要があります。
①現状とあるべき姿の「ギャップ」を認識し、
②「課題」を持ち、
③「気づき」があったらメモを取り、
④取ったメモをもとに「ファクト→抽象化→転用」という最強のフレームワークに乗せる
本作、メモを取る重要性と活用法を改めて教えてもらえます。


ちなみにこの著者。
人気女優石原さとみ氏との熱愛が報じられていました。(2018年5月の『週刊文春』)


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■読んだきっかけ:書店店頭
■読んで知ったこと:モデレーション。
■今度読みたくなった作品:『学びを結果に変えるアウトプット大全』樺沢紫苑
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