『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』

「ゴジラ対ラドン効果」。

私が大好きなインターネットテレビ「DHCテレビ」が放送している『虎ノ門ニュース』。
保守論客のコメンテータが日替わりでニュースを解説してくれる番組ですが、そんなコメンテータの一人、科学者武田邦彦先生。
なかなか過激な発言が多い方ですが、私、彼の発言の中で、印象に残っているものの中に「科学的だというのは再現性があるということだ。再現性がないものは科学じゃない」なんてのがありました。(武田先生、記憶が不正確だったらごめんなさい)
ちまたの書店に行くと、仕事での成功、人間関係での成功、恋愛での成功といったよううなさまざまな「成功法則」を紹介する本があります。
世の中みんな、なんらかの「成功」を求めているんですね。

――――――――――――――――
書名:『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』
著者:エリック・バーカー
出版:飛鳥新社(2017.10)
――――――――――――――――

著者はアメリカの人気ブロガー。
ビジネスの分野で既に広まっている「成功する法則」や「成功への方程式」に対し、エビデンス(証拠)を突きつけることで、「本当にその法則や方程式は正しいのか?」「その法則や方程式の真意は何か?」「その法則や方程式を実現するのに他に必要な要素はない?」を明らかにしようとします。


本作は翻訳ものです。
原題は『BARKING UP THE WRONG TREE  The Surprising Science Behind Why Everything You Know About Success Is (Mostly) Wrong』。
直訳すると『間違った木をバラバラにする  成功についてあなたが知っているすべてのものが(大部分)間違っているのはなぜかという驚くべき科学』。
メインタイトルの『BARKING UP THE WRONG TREE』の方は、ちょっと、意味が分かりません。

目次です。

<本文引用>------------
序   章 なぜ、「成功する人の条件」を誰もが勘違いしているのか
第1章 成功するにはエリートコースを目指すべき?
第2章 「いい人」は成功できない?
第3章 勝者は決して諦めず、切り替えの早い者は勝てないのか?
第4章 なぜ「ネットワーキング」はうまくいかないのか
第5章 「できる」と自信を持つのには効果がある?
第6章 仕事バカ……それとも、ワーク・ライフ・バランス?
(本文より)
------------------------

こんな感じで、巷に流れる「成功する法則」や「成功への方程式」を社会学者の研究結果を引用しながら、それをエビデンス(証拠)として、検証していきます。


私が一番印象に残ったのは、「相手への説明」の効果に関する検証です。
ビジネスの場面では、論理的な説明や、事実(ファクト)を使った説明による結論の一致を進められます。

丸の内のビジネス書のコーナーを覗けば、「●●式説得術」とか「論理的説得術」といったたぐいの本を容易に見つけることが出来ます。

私は血の気の多い上司からは「お前は相手をなんで論破しようとしないんだ! いっつもあいまいな決着ばかりしやがって! だから、お前はお人よしって言われんだ!」などとなじられることが多いです。
でも、私、どんなに上司にそんな風に起こられても、相手を屈服させるような交渉は避けておりました。(「そんなんだから、お前は課長どまりなんだ!」とも言われましたが・・・)

本作では、この私のやりかたを、なんとなく、肯定してくれる記述がありました。

<本文引用>------------
私たちは個人的な人間関係において、これと同じことをやっている。ものごとがまずい方向へいくと、往々にして私たちの最初の反応は戦うことだ。暴力ではないが、話し合いや交渉に比べ、怒鳴り合いや口論が多い。それはなぜか?
哲学者で認知科学者のダニエル・デネットによれば、人間の脳には進化の過程で「戦争のメタファー」が組み込ていて、他者との不一致を戦争という観点で理解し、行動する回路が備わっているからだという。
戦争においては、どちらかが征服される。それは事実や論理による話し合いではなく、命懸けの戦いだ。どちらが真に正しいかに関係なく、片方が勝てば、他方は負け。ほぼすべての会話でも、勝者か敗者かという地位が懸かっている。誰しも、自分のほうが愚かに見えることを望まない。したがって、デネットが指摘するように、私たちは、諭された側イコール敗北という状況をつくり上げてしまうのだ。(本文より)
------------------------

「説明」するという好意は、ある意味、「相手に戦争をし掛けている」と同じなんですね。
ということは、相手からすると、「相手から戦争をし掛けられている」と同じなんですね。

著者は、この「説明」の後に何が残るかを解説しています。

<本文引用>------------
たとえあなたが手堅い証拠と完璧な論理性を武器に反論者を追いつめたとしても、その結果はどうなるか?相手は譲歩しても、間違いなくあなたのことを憎むだろう。勝ち負けに持ち込めば、こちらの側も実質的に敗者になる。
臨床心理士のアル・バーンステインも同意見で、「ゴジラ対ラドン効果」と名づけた。もし相手が怒鳴りだし、あなたも怒鳴りだせば両者は「戦争のメタファー」をたどることになり、ピルがなぎ倒される。東京じゅうが破壊され、収穫はほとんど何もない。あなたはこう思うだろう。
「ただ説明しようとしているだけなのに」
しかし、バーンステインが言うには、それこそが罠だ。説明するという行為の多くは、ベールに隠された支配欲である。あなたは相手に教えようとしているのではなく、勝利しようとしている。言外の意味は「私が正しく、あなたが間違っている理由はこうだ」である。そしてあなたがどう説明を尽くそうと、相手の耳に残るのはこの言外の意味なのだ。(本文より)
------------------------

うーん、私はもっと尊徳勘定で考えていました。
どっちが正しいか白黒つけて決着をつけたところで、その後も一緒に仕事をして行かざるを得ないわかですから、そのための保険のようなつもりでした。


翻訳は竹中てる実氏ですが、、これとは別に監訳という人がおり、これがなんと、橘玲氏。

橘氏は冒頭でこんなことを言っています。

<本文引用>------------
じつはこれらの本には、ひとつの共通点がある。 それは証拠(エビデンス)がないことだ。
ジャンボ宝くじで三億円当たったひとが、「宝くじを買えばあなたも億万長者になれる」という本を書いたとしたら、「バカじゃないの」と思うだろう。なぜなら、この「成功法則」には普遍性がないから。ちょっと計算すればわかることだが、宝くじで1等が当たる確率は、交通事故で死ぬ確率よりずっと低い。
ところが世の中には、不思議なことに、「1等がたくさん出た売り場に行けば当たりやすい」と行列をつくるひとが(ものすごく)たくさんいる。 これを経済学者は「宝くじは愚か者に課せられた税金」と呼ぶが、著者のエリック・パーカーは「間違った木に向かって吠えている(Barking up the wrong tree)という。――ちなみにこれが本書の原題だ。
「間違った木」というのは、役に立たない成功法則のこと だ。 会社で出世したり、幸福な人生を手に入れるためには、「正しい木」をちゃんと選ばなければならない。でも、どうやって?
それが、エビデンスだ。(本文より)
------------------------

そうなんですよね。
宝くじを当てるのって、携帯電話の「090」以外の部分を一発で当てるくらいの確率なんだそうです。

宝くじの1等の当選確率は1000万分の1。
この確率は、
携帯電話の番号が“090-2***-****”で、残りの“*”をたった一発でズバリ当てる確率だということを、『マンガ - コサインなんて人生に関係ないと思った人のための数学のはなし』で知りました。

以前、この話を同僚に言うと、「でも、買わなければ、ゼロだろ?」「それに、買えば、夢を見ていられるじゃん!」と反論されました。
確かに社会科学は自然科学と違って、万が一の偶然で実現してしまう、なんてことがあります。

<本文引用>------------
エビデンスのある主張というのは、(むずかしい)病気の治療法に似ている。
科学的に正しい治療を行なえば、一定の確率で治癒が期待できるが、誰でも確実に治るわけではない。しかしそれは、科学的根拠のない民間療法(水に語りかける、とか)よりも統計的に有意に治癒率が高い。これはようするに、デタラメな成功法則でも(どれほど確率が低くても宝くじの当せん者がいるように)たまたまうまくいくひとはいるが 、エビデンス文のある法則を実践したほうが成功率はまちがいなく上がる、ということだ。(本文より)
------------------------

私、友人に「買わなければ損失ゼロだよ、買って外れればすべて損失なんだよ」と言い返そうと思いましたが、止めときました。


著者のエリック・バーカー氏の人気ブログのURLはこちら。
 ↓
https://www.bakadesuyo.com
「bakadesuyo」・・・「馬鹿ですよ」

きっと日本好きに間違いないでしょう。


――――――――――――――――
■読んだきっかけ:書店店頭
■読んで知ったこと:「ゴジラ対ラドン効果」。
■今度読みたくなった作品:『もっと言ってはいけない』橘玲
――――――――――――――――

511 残酷すぎる成功法則.jpg










『一流家電メーカー「特殊対応」社員の告白』

ハードディスクの回転数は1分間に5400回以上。

1990年に銀行員として社会人スタートした私。
けっこう、顧客対応で悩むことがありました。
一番悩ましいのは、融資先への督促。
引落日に口座にお金が入っていないわけですから、こちらに非はありません。
それでも、「あのう、大変申し訳ござません。〇〇銀行融資課の後田と申します。本日お引きをさせていただく予定の金額〇〇円がお口座に・・・」なんてやるわけです。
で、言い方を間違えると途端にクレームとなり、時には副支店長あたりを巻き込んだ騒動に発展します。
そんなある日、書店でクレーム対応マニュアルなるものを見つけました。
「顧客の言い分を聞きなさい」「傾聴の姿勢でのぞみなさい」
でも、「なんで、延滞した相手の方が悪いのに、こちらの言い方が悪いなどと怒られなきゃならないんだ!そんな相手になんで傾聴?」そんな風に思いました。

――――――――――――
書名:『一流家電メーカー「特殊対応」社員の告白』
著者:笹島健治
出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン(2017.11)
――――――――――――

著者は大手電機メーカーに20年勤務し、主にパソコン事業で「特殊対応」してきたお方。
本作では、「特殊対応」で対応してきた出来事を紹介しながら、読者に対し、「人はどう働くべきか」を考えるきっかけを提供しようとします。


「特殊対応」とは、著者の所属する大手電機メーカーの製品を使っている重要な顧客への対応を指しています。
なんで「特殊対応」が必要になるのか?

<本文引用>------------
同じ大型医療機器を製造販売している国内ライバル企業や海外医療機器メーカーなどと厳しいお客様の取りあいを日々繰り広げている分野なので、大手のK病院のご機嫌を損ねるわけにはいかないのでした。
しかし、「要求どおりに対応し、ファイルを救出せよ」とは、言うは易しですが、トラブルの内容によっては物理的に不可能な場合もあるのは、パソコンに多少でも詳しい方ならわかると思います。 ところが、A社はパソコン事業を営んでいる企業であるにもかかわらず、経営幹部はパソコンの技術的なアレコレなんてほとんど理解していません。 そのため、このような指令では、技術的に可能/不可能かがわからないことでも平気で安請けあいすることがあるのです。(本文より)
------------------------

「特殊対応」しなければならない顧客、「特殊対応」を命じる人たち。
まあ、どの会社も同じなんですね。

<本文引用>------------
「てめぇ!仕事中にバッテリが切れたら使い物にならねぇじゃねぇか!」と叫びながら、順番に並んでいただくようご案内しようとした私に向かってCompunoteをカまかせに、投げつけたのです。
もともと運動神経の鈍い私は、「パーフェクトなご案内の体勢」のまま顔面で受け止めてしまい、私の鼻血でお客様のパソコンは血だらけになってしまいました。
順番待ちをしていたお客様たちも、軽いパニック状態になってしまい、代わりのスタッフが駆けつけて来たことで私の出番は終了しました。
別のスタッフがおうかがいしたところ、このお客様は、昨日から出張で大阪に来ていたのですが、ACアダプタを忘れてきたそうで、肝心の商談のときにバッテリ切れになることに気がつかなかったそうです。 結局、お客様はショールームでフル充電して帰られました。
鼻が大きく腫れあがって、激痛も怒りも収まらない私は病院に行くことになりました。 サポートセンターは、さまざまな方たちがそれぞれの感情や疑問をぶつける場でもあるのですが、パソコンをぶつけるのだけはやめてほしいものです。(本文より)
------------------------

店員に怪我までさせておいて「・・・結局、お客様はショールームでフル充電して帰られました。」って書いてます。
うーん、でも、このエピソード、ホントかなあ?と思ってしまいます。

他人に怪我をさせても、何の罪を問われることなく、自分のPCの充電をして平然と帰ることが出来る、販売する側と、買う側の関係。
もしこの話が本当だとしたら、こういう諸先輩たちの顧客対応が、現在に続く、「モンスタークレーマー」を生み出したのでは?と思ってしまいます。

<本文引用>------------
しかし、私が特殊対応の業務に就き、さまざまな経験を乗り越えて、やがて退職し、いま思うのは――「理不尽なことには声をあげるべきだ」「もうダメだ、死ぬしかないなんてことは ない、逃げだせばいいんだ」ということです。これは、特殊対応にあたっていた当時の私自身に、そして私の先輩や同僚たちに、もっとも伝えたかったことでもあります。
本書は、糾弾本や暴露本ではありません。本書を「人はどう働くべきかを考える本」だと受け取っていただければ、著者として、とてもうれしく思います。(本文より)
------------------------

こんな風に締めくくっていますが、なんか「自分は逃げずにやってきた。でも、皆さんは逃げてください。逃げてもいいんです。」と言われている気がします。


私が銀行員になったのは1990年。

世間ではバブル崩壊の影響がチラホラ出始めていました。
散々バルブで乱脈融資をやった先輩と居酒屋で飲んだとき、バブル武勇伝を騙り切った最後に、
「なあ、後田、お前たちは俺たちみたいには、なるなよ!」
って言われた時、
「ふざけんな!どれだけ、俺たちが後ろ向きな業務ばかりやらされてると思ってんだ!」
と言い返したくなった頃のことを思い出してしまいました。

著者が読者に伝えたいと言っていることと、実際に書かれていることに、なんとも違和感を感じてしまう、一冊でした。


正直、とんでもない顧客対応のエピソードのオンパレードですが、ITに関するわかりやすい解説も掲載されています。

<本文引用>------------
そして、その高速で回転しているプラッタに記録されているファイルを読み書きするために、スイングアームの先端に取りつけられた「磁気ヘッド」がプラッタに接触することなく、髪の毛1本分ほど浮いている状態でファイルの読み書きを行うのです。
パソコンの電源を入れると、Windows起動時にカリカリと軽快な音が聞こえることがありますが、これはハードディスクが内部で読み書きしているときの音なのです。さて、このプラッタとよばれる円盤がどのくらいの速さで回転しているかというと、ハードディスクにもよりますが、1分間に5400回あるいは7200回というスピードで回転しており、なかには1万4000回という高速なタイプのものもあります。
ちなみに、家庭用のドラム式洗濯機に搭載されているドラムを回すためのモーターは、脱水時にもっとも高速に回転しますが、それでも約1500~1600回転です。いかにハードディスクのプラッタが高速回転しているのかが、イメージできるのではないでしょうか。
性能としては、プラッタの回転数が速ければ速いほど、データの読み書きの速度は上がるのですが、デメリットもあります。回転が高速になればなるほど、一般的にモーターの回る音や振動も大きくなり、消費電力も大きくなるため、発熱もそのぶん大きくなります。とくにモバイルパソコンの場合、消費電力が大きくなると、バッテリ駆動時間が短くなるなどのデメリットとなります。(本文より)
------------------------

洗濯機の回転数が1分間に1500~1600回転なんて、初めて知りました。
ハードディスクの回転速度がとてもよくイメージできます。


――――――――――――
■読んだきっかけ:Amazon
■読んで知ったこと:ハードディスクの回転数は1分間に5400回以上。
■今度読みたくなった作品:『謝罪の作法』増沢隆太
――――――――――――

510 一流家電メーカー「特殊対応」社員の告白.jpg











『オウム死刑囚 魂の遍歴 井上嘉浩 すべての罪はわが身にあり』

「再審制度」が何故あるのか? 何故必要なのか?

2018年7月、オウム事件の死刑囚13人全員の死刑が執行されました。
お盆でたまたま実家に帰っていた兄と私。
このニュースをめぐって、大激論。
「今後の信者からの報復があるにもかかわらず、また、多くの歴代大臣で見られるような執行の署名拒否をすることなく決断した英断」とする私。
「まだまだ真相を掘り起こせるのも係わらず、なんとなく平成の事件は平成のうちにという判断がみえみえの接触な行動」とする兄。
久々の兄弟げんかを母はただただ見ているばかりでした。

――――――――――――
書名:『オウム死刑囚 魂の遍歴 井上嘉浩 すべての罪はわが身にあり』
著者:門田隆将
出版:PHP研究所(2018.12)
――――――――――――

著者は政治、経済、司法、スポーツ、事件事故などさまざまな分野での執筆を行うジャーナリスト、ノンフィクション作家。
本作では、2018年7月に執行されたオウム死刑囚の中の一人「井上嘉浩」に注目し、死刑制度を扱う政府の姿勢を批判します。


被告人の刑は、司法の場で、検察の求刑と、弁護人による弁護を経て、裁判官が確定します。
で、法務大臣の命令によって執行されます。
司法と行政で役割分担されています。

<本文引用>------------
その時、嘉浩の前に、“ケイマ”こと、石井久子が現われた。そこで石井が語った言葉は忘れ られないものとなった。
「井上さんにはアーナンダ、早川さんにはティローパというホーリーネームが与えられました」
石井は、 そう告げたのである。
(……)
まだ脳がまともに働いていない嘉浩に向かって、石井は、さらにこう言った。
「もう成就しました。 あとツァンダリーを三十回おこなったら、修行を終えていいですよ」
えっ?ついに、成就しました――。あまりに突然のことだった。
それは、高校時代からずっと念願していたことだった。 その成就がついに達成されたのだ。このために「出家」までして挑んだ「悲願」である。(本文より)
------------------------

ケイマ、アーナンダ、ティローパ、ホーリーネーム、ツァンダリー。

正直言って、その教団の中にいなければ、何の意味も持たないような言葉。
しかし、閉ざされた教団内では、信者たちは、こんな言葉に一喜一憂します。

<本文引用>------------
常識のある人間なら、麻原の行動がいかにおかしいかは、即座に判断できる。しかし、自分たちの身に起きたヨーガの神秘体験が「グルによってもたらされている」と信じて疑わない信者たちには、そんな思考ができるはずはなかった。
だが、許されない犯罪に手を染めた幹部たちは、当然、その異常性に気がついていた。それでも彼らは、引き返すことはなかった。そこにオウム犯罪が許されない根源がある。
最大のものは、なんといっても、一九八九(平成元)年十一月四日に起きた坂本堤弁護士一家殺害事件である。(本文より)
------------------------

途中で、自分たちの所属しているグループが誤った方向に進んでいるのに、誰も異を唱えない。
集団行動の恐ろしさが見えてきます。


本作を読んで、「再審制度」というものを改めて知ることが出来ました。

<本文引用>------------
だが、三審制を敷いている日本であっても、人間がやることだから間違いはある。さらには裁判が終わってから、新証拠や新証人が出てくる場合もある。では、、あくまで「真相究明」を目的とする刑訴法は、これらにどう対応しているのだろうか。
答えは「再審請求権」に見出すことができる。
裁判が終わった後、つまり、確定囚に対しても、「真相究明」にかかわる新証拠が出てきた場合は、もう一度、審理を要求する権利が認められているのである。そのために刑訴法には再審請求の規定が細かく定められているのだ。(本文より)
------------------------

子どものころ、死刑囚の「再審請求」のニュースを初めて耳にしたとき、「えっ?日本って、三審制でしょ?3回もやって、まだやるの?」そんな風に思いました。

著者は、単に「再審請求」の権利を主張してるわけではありません。

<本文引用>------------
しかし、死刑執行を免れる目的で、この再審請求権が人権派と称される弁護士たちによって利用される場合がある。そのため裁判所は、それが「実質的」な再審請求なのか、「かたち」だけの再審請求なのかを判断しなければならない。(本文より)
------------------------

では、著者は、井上嘉浩の「再審請求」をどう見ているか。

<本文引用>------------
その意味において、伊達弁護士は、井上嘉浩について真相究明のための「実質的」な再審請求をおこなっていたと言える。もともとオウム死刑囚十三人の中で、一審が「無期」、二審以降が「死刑」と、判断が分かれていたのは嘉浩だけである。 伊達は、前述のとおり、嘉浩の行動を客観的に裏づける大雪の新聞記事をはじめ、いくつもの新証拠を含んだ再審請求書を提出していた。
そして、東京高裁刑事八部は、第二回目の進行協議で嘉浩の携帯電話の発信記録の提出を検察に命じて、次回第三回目の期日を「八月六日」に決定していたのである。
事件の真相究明に向けて、まさに裁判所、検察、弁護側の三者が動いていたのだ。
だが、その真相究明への道は突然、有無を言わせぬ死刑執行で断ち切られた。(本文より)
------------------------


冒頭の兄弟げんか。

本作を読むと、どうやら、兄の方に分がありそうです。
冤罪ではない前提で、大量の無差別殺人の実行犯であるAとBがいたとして、Bの証言にウソを決定づける新たなAの状況証拠が見つかったとして。
それを理由に、AとBの死刑を執行を停止することにどれだけの意味があるのか??

いや、国家による「殺人」とも言える死刑は、法律上全く瑕疵がない状態で行わなければならないのでは?
とても考えさせられる内容でした。


本作著者の門田隆将氏。
以前、『虎ノ門ニュース』に出演した際、「犯罪被害を考えると死刑制度は認めるという立場。しかし、それだからこそ、正しく執行されなければならない。」といった発言をしていました。
死刑制度に賛成しつつも、死刑をなんでも肯定するわけではない。

そんな「是々非々」のスタンス。
ますます、ファンになりました。


――――――――――――
■読んだきっかけ:DHCテレビ『虎ノ門ニュース』
■読んで知ったこと:「再審制度」が何故あるのか? 何故必要なのか?
■今度読みたくなった作品:『悪魔のささやき』加賀乙彦
――――――――――――

509 オウム死刑囚.jpeg